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ワーキングマザーの不全感と疲労感について考える

2016年11月16日 沢村香苗


ワーキングマザーは疲労している
 昨年、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」が国会で成立し、事業主が女性の活躍推進に向けた行動計画を策定・公表し、また女性の職業選択に資する情報を広報することが義務付けられた。
 活躍を推進される側の女性の方の状況はどうだろうか。現在、ワーキングマザー(以下WMとする)は既存の制度の中でも就労を継続しており、既に「活躍」している女性たちということになるかもしれないが、本人たちが「輝いている」、「活躍している」という自己認識を持っているかというと必ずしもそうではない。むしろ、いつも不全感と疲労感を抱えながら職場と家庭を往復していることが多いようである。当然、活躍という言葉に対してもそれほど前向きではない。事業主側がいくら取り組みを推進しても肝心の女性が乗ってこないというのでは、早晩行動計画も形骸化してしまうだろう。
 あくまで筆者の観察によるものではあるが、WMの不全感と疲労感の源泉をたどりつつ、女性活躍推進に当事者も参加できるような動機づけのあり方について考えてみたい。

不全感・疲労感の原因は何か
 平成23年社会生活基本調査によると、WMの夫は平均で通勤・仕事に8.5時間、家事・育児・買い物に0.6時間を費やしているのに対し、WMは通勤・仕事に4.6時間、家事・育児・買い物に4.8時間を費やしている。合計では0.3時間女性の労働時間が長いが、その差はそれほど大きくはない。疲労を深める要因は労働時間だけではなさそうだ。
 1つの要因として、労働量に対する達成感を得にくいことが挙げられる。職場と家庭両方において、一定のところで仕事を切り上げざるを得ないWMは職場でも家庭でも「十分に仕事をしていない」という感覚を持ちがちである。特に、家事労働は無償である上、成果が積みあがりにくく、だからといってやらずに済ませられるものでもない。
 職業性ストレスを説明する代表的なモデルの1つである努力-報酬不均衡モデル(Siegrist 1996)では、仕事の遂行のために行われる努力に対して、得られる報酬が不足の場合により大きなストレス反応が発生すると整理されている。そこまでは当たり前のように聞こえるかもしれないが、特に承認欲求が強い人の場合は努力が報われない(努力に対して報酬が不均衡となる)原因を自分の努力不足に帰属させてしまい、オーバーコミットメントすることによりストレスが増大しがちになるという点が重要である。
 職場における行動計画は、あくまで職域における外在的努力に関連するもの(仕事の要求度等)や外在的報酬(経済的報酬・社会的報酬)に関連するが、筆者は、家庭内労働も含めた努力と報酬の均衡についても考慮する必要があると考える。

見えない労働
 家庭におけるWMの労働で、調査に表れにくいものがある。それは段取り・調整である。共働き家庭の段取りというと、いかに家事を効率的に行うか、分担するかに目が行きがちだが、特に子供が成長するにつれて増えるのが、段取り・調整のタスクである。1日の中での段取りはもちろんのこと、1週間単位での中期的な段取り、より長期の子育てプランというべきものなど、WMの頭の中は常に段取りで埋められている。例を挙げると、
 短期(1日):習い事や保育園等の送り迎えの時間/夫婦の分担と交渉・ルート上での買い物計画・帰宅後の
  家事・翌日の準備等
 中期(1~2週間):臨時スケジュール(行事など)と定期スケジュール(習い事など)の調整・関連物資の調達・
  夫婦の分担と交渉
 長期(年単位):子供の進学プラン・それに合わせた働き方の検討等
といったものである。これが、職場での業務と並行して常に行われているのである。
 WMはこれらのシミュレーションを全ての家族成員について行い、さらに全体の実行可能性を鑑みて、全員の幸福を最大化すべく最終的な行動計画を立てる。このシミュレーションは多種多様な要因(天候、家族の機嫌、予定変更等)によって常にやり直しを余儀なくされる。さらに成果が見えにくく、失敗は見えやすい。称賛を得ることもない。つまり報酬が得にくいのである。
 さらに、よくできるWMほど、職場でも同様に、成員を幸せにすべくこのようなシミュレーションを行う。管理職であればそれが仕事の一つにもなりうる。女性が管理職になりたがらない1つの原因は、このシミュレーションを仕事でも行うのはごめんだ、という気持ちなのかもしれない。

職場においてどのような対処が可能か
 それぞれのWMが精いっぱいの努力をしており、それゆえに客観視する機会もエネルギーも確保できず、一方で世の中から提示される「輝く女性」の像を見ながら、「自分は、そんな風にはできていない」と不全感を深める循環を断つにはどのような働きかけが可能なのだろうか。
 職場の通常業務において、このようなWMのいわば「空回り」のような側面を直接取り扱うのは困難かもしれない。これについては外部から指摘されても、「できていない」感じをさらに与えるだけである。
 ただ、逆説的かもしれないが、WMに内省の時間を与えることができる可能性が高いのもまた職場である。家で1~2時間の余裕があるとき、その時間で内省したいというWMはどれだけいるだろうか。むしろ日々のストレスに直接対処するために、たまった家事を片付けたり、もっと楽しいことをしたりというほうが自然なのではないだろうか。自分の努力がいったいどこに向かっているのか、どのようにしたら報われるのか、そもそもその努力を続けるべきなのか、といったことについて、内省する時間を提供したり、他者と共有し客観視したりできるような研修等が職場としてのひとつの有効な働きかけであると考えられる。たとえば最近、先進企業において注目されている「マインドフルネス」(瞑想等を通じて、「今・ここ」に注意を向ける方法)なども、頭も身体も休みなく動かし続けているWMを一旦とどめ、自分を見つめる機会を提供する一つの手法になりうるかもしれない。

 Siegrist, J. (1996), “Adverse health effects of high effort-low reward conditions at work”, Journalof Occupational Health Psychology, Vol. 1, pp. 27-43.


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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