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【シニア】
第17回 世界と日本で広がるリビング・ラボの活動

2017年01月24日 劉磊


 Common shared value(CSV:共通価値の創造という概念が提唱されて定着しつつあるが、これと呼応し、実現する活動の一つがリビング・ラボである。これまでも本コラムシリーズで数回登場してきたリビング・ラボであるが、今回はその成り立ちと世界的な動きを紹介したい。

 リビング・ラボの考え方は1990年代前半、米国で提唱された(W. Mitchell、J.Suominen、G.D. Abowdらによる)。氏らは住民(生活者・当事者)と「共創」するイノベーションの総称としてリビング・ラボを提唱した。まちの主役である住民(生活者・当事者)が、暮らしを豊かにするためのサービスや商品を生み出し、より良い品質にしていく活動を指す。
 従来、一般的には企業の中にあった開発機能(ラボ)を住民の近く(リビング)に置き、住民と共にPDCAサイクルを実行することで、製品の開発期間を短縮し、狙ったセグメントに対して「ニーズに正しく応える」商品を開発できることが期待されている。企業と住民、場合によっては行政や大学など様々なステークホルダーが試行錯誤しながらアイデアを具体的なサービス、商品に成熟させるところに、従来の企業単独で行われがちな商品開発になかった機能が付与されているのである。

 興味深いことに、リビング・ラボはその提言が生まれた母国である米国よりも、欧州で定着・発展してきた。自由主義の元での競争よりも、相対的に共創を重んじる欧州の価値観との親和性が背景にあると推測されるが、2000年ごろから特に北欧を中心に急速に展開した。代表的な国策として、2000年以降よりフィンランドで「ナショナル・テストベッド プロジェクト」が推進され、同様にスウェーデンでも「LL(リビング・ラボ)設立支援プロジェクト」が展開された。2006年よりフィンランド首相が欧州委員会議長に就任した後は、北欧の政策がEUの政策へと拡大され、リビング・ラボはEU全土への広がりをみせた。世界で活動するリビング・ラボの大多数が現在もEUに拠点を構えるが、近年アジア、南米、カナダなどにも展開され、グローバルでは50カ国・388のリビング・ラボが活動中である(2016年1月時点)。

 リビング・ラボの魅力の一つが、その世界的ネットワークである(European Network of Living Lab:ENoLL)。例えば欧州の企業で開発された商品がアジア諸国の住民ニーズに合うか、などのようなテーマの検証は、相手国にリビング・ラボがあれば、それを活用した実証試験が可能である。また両国にリビング・ラボがある場合は、これらを経由して相互の国で検証実験を展開することも可能だ。世界的に展開するグローバル企業なら、同様の調査を調査会社に依頼して実施することも不可能ではないが、リビング・ラボを活用した方がコスト面等でのメリットがある。また規模的には手軽に海外での実証が難しい中・小規模の企業にとっては、海外展開前のコンセプト検証、プロトタイプテストに有用なテストベッドである。
 日本では、ENoLLに登録されているリビング・ラボはまだ1箇所である(慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科「リアルプロジェクト」)が、マルチステークホルダーで共創を目指す同様の枠組みが増えているところだ。松本市の松本ヘルス・ラボではヘルスケアに焦点をおき、企業、大学を巻き込んだ取り組みが続いている。筑波大学の原田教授を中心に2011年度に立ち上げた「みんラボ」(みんなの使いやすさラボ)では、企業、行政他から依頼を受ける形で様々な商品サービス等について、高齢者の使いやすさを検証している。

 これまでのコラムでも紹介してきたように、われわれ日本総研も、進行中のギャップシニア・コンソーシアムの実証試験において、地域拠点を活用し、住民や企業と共に高齢者向けの商品・サービス開発を行っているところだ。今後は大学との連携をさらに深め、グローバルネットワークへの接続を狙っていきたい。高齢者先進国である日本で開発された商品・サービスは、世界に売っていかないともったいない。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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