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アジア・マンスリー 2017年3月号

【トピックス】
中国社債市場のモラルハザード問題

2017年02月28日 関辰一


中国では、政府が国有企業の債務を暗黙に保証してきた。これにより、国有企業は返済能力を上回る規模の債務を負いやすくなる一方、資金の出し手は経営に対するチェックが甘くなるという問題が生じる。

■市場メカニズムが機能しない社債市場
中国の社債市場では、どのような銘柄に投資しても、元本の償還と利息の支払いが事実上保証されるという、いわば市場メカニズムを逸脱した状況が長く続いている。

実際、レーティングが付与されている社債の発行体数を集計すると、2005年末の3社から2015年末には3,739社へ大幅に増加する一方、デフォルトした社数は2013年までゼロ、2014年と2015年もそれぞれ4社と19社にとどまる。レーティングを付与されている発行体数に占めるデフォルト率を計算すると、2013年までは0%、2015年でもわずか0.51%である。格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが集計した全世界のデフォルト率は、リーマン・ショックを受けて、2007年の0.37%から2008年には1.80%、2009年には4.18%へ大きく上昇したことと比較すると、中国の特異さが際立つ。2015年においても、全世界のデフォルト率は1.36%であり、中国のデフォルト率は極めて低い水準にあるといえよう。

なお、本稿でいう社債とは、中国語でいう企業債券のことである。株式会社が長期の資金調達のために発行する確定利付きの債務証券のみならず、株式会社の形態をとっていない国有企業が発行する債務証券、ならびにコマーシャルペーパーなど短期の債務証券も含まれることが、企業債券の特徴である。

中国人民銀行の「社会融資規模存量」によると、社債発行残高は、2010年末には3.8兆元であったが、2016年末には17.9兆元まで急増した。その間、銀行融資に対する比率は8.1%から17.0%まで上昇した。社債発行が活発化したことがうかがえる。

■デフォルトさせないようにしてきた政府
中国の社債デフォルト率が異常に低い背景には、収益が悪化した企業を政府が全面的に支援し、デフォルトさせないようにしてきたことが指摘できる。

地場の格付け会社である中債資信評估有限責任公司によると、本来であれば2012年4月16日に、上場繊維メーカーの山東海龍が発行した「11海龍CP01」が中国の社債デフォルトの第1号になるところであった。同社は経営不振により債務超過に陥ったほか、財務諸表における虚偽報告が明るみに出たため、マーケットでは約定通りの利払いについて懐疑的な見方が広がっていた。山東海龍の社債が償還日を迎える前、同社はすでに金融機関12社に対して借入金の利息を約定通りに支払っていなかったため、光大銀行、深セン発展銀行、中国輸出入銀行など複数の金融機関から告訴されていた。銀行預金口座を凍結するよう債権者である金融機関に求められていた状況であった。

しかし、山東省濰坊市政府はデフォルト回避に向けて終始、力を尽くした。具体的には、大手紙・パルプメーカーの寿光晨鳴控股有限公司と大手織機メーカーの中国恒天集団に合併案を持ちかけたほか、濰坊市政府が担保を提供し、社債の募集と販売を行った恒豊銀行が救済融資を行ったことで、デフォルトを免れたという。

日本でも、官民出資の投資ファンドである産業革新機構などが政府保証付きの借入金で資金調達することがあるものの、このケースのように政府が直接担保を提供することは、通常考えられない。それだけ、中国では政府保証の問題が特異であるといえよう。

中国の国有企業には中央政府が管轄する中央国有企業と、地方政府が管轄する地方国有企業があるが、山東海龍は山東省濰坊市の地方国有企業である。山東海龍の社債がデフォルトし、さらに同社が経営破綻に陥ると、数万人の従業員の雇用問題が浮上するほか、自らの責任が社会で問題視されることが、地方政府をデフォルト回避に動かしたとみられる。

政府保証は、国有企業の資金調達構造を歪め、企業の債務問題を深刻化させる。国有企業は仮に利払いに窮しても、最後は政府が助けてくれるだろうと高を括り、返済能力を上回る規模の債務を背負いやすくなる。銀行や保険会社など資金の出し手も、どうせ企業経営が傾いたところで政府がなんとかするだろうと、融資や投資を行うにあたり、事業の将来性や返済能力を十分に審査しなくなる。

実際、政府保証の存在によって、中国の社債市場には歪みが顕在化している。市場メカニズムが機能していれば、一般的には経営の効率性が高い企業ほど、信用が高く、資金調達コストが低くなるはずである。しかし、中国では国有企業であれば、経営効率の善し悪しにかかわらず、資金調達コストは低い水準に抑制されている。

例えば、以下のような状況である。2016年12月1日時点で、上海証券取引所で取引されている民間企業の公司債は307銘柄ある。公司債とは、株式会社と有限会社が長期の資金調達のために発行する確定利付きの債務証券であり、一般的な社債の概念に近い。それらのうち、債券の表面利回りと発行体企業の2010~2015年のROAデータが揃っているのは、203銘柄ある。この203銘柄の表面利回りを単純平均すると5.8%になる。また、当該銘柄の発行体企業の5年間のROAを単純平均すると、8.0%となった。これに対して、同じく12月1日時点において上海証券取引所で取引されている国有企業の公司債は655銘柄ある。債券の表面利回りおよび発行体企業の2010~2015年のROAデータが揃っているのは、このうち561銘柄である。この561銘柄の表面利回りは平均4.2%となる一方、5年間のROAは平均5.3%であった。これらを比較すると、明らかにROAの高い民間企業の方が、高い利率での社債発行を強いられていることになる。

■ジレンマに直面する政府
最近、政府はデフォルト容認姿勢に転じ始めたため、2016年入り後に社債のデフォルトは急増している。2016年には社債のデフォルトが79件発生し(37社)、2015年の22件(19社)を大きく上回った。政府のデフォルト容認姿勢と厳しいマクロ経済環境の下、当面は中国での社債のデフォルトは一段と増加する可能性が高い。一方で、マクロでみた中国企業のレバレッジは危険水域にまで高まっているため、予期せぬデレバレッジの加速が危機を招くリスクを恐れる当局が、デフォルト抑制姿勢に戻る可能性も否定できない。経済危機を回避しつつ、市場メカニズムの機能を高めていけるのか、引き続き社債市場の動向と政府のスタンスに注目していきたい。
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