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アジア・マンスリー 2017年2月号

【トピックス】
債務の株式化で債務削減を進める中国

2017年01月31日 三浦有史


中国企業の業績は2016年に回復したものの、債務が急増している。これを受け、中国政府は国有企業にレバレッジ比率の引き下げを求める政策を打ち出した。鍵を握るのは債務の株式化である。

■政府は安定成長に自信
国家統計局は、2016年12月の定例記者会見で、「中国は安定的な成長軌道にある」という認識を示した。1~11月の経済指標をみると、こうした自信を裏付けるデータが並ぶ。鉱工業の付加価値を示す工業増加値は前年同期比+6.2%、不動産開発投資は同+6.5%、消費動向を反映する社会消費財小売総額は同+10.4%と、いずれも前年実績を上回る。政府内では2017年も+6.5%前後の経済成長が見込めるという楽観論が支配的となっている。

企業の業績も回復している。鉱工業分野の企業の1~11月の主管業務収入は前年同期比+4.4%、利潤総額は同+9.4%と、回復に転じた(右上図)。これを支えたのは国有・国有持ち株企業(以下、「国有企業」)である。国有企業の利潤総額は、2015年に前年比▲21.3%と大きく落ち込んだものの、2016年1~11月は過剰生産能力が問題となった鉄鋼と石炭の業績が回復したことから、前年同期比+8.2%と「V字回復」を遂げた。国有企業の業績回復は楽観論を支える材料のひとつとなっている。

■高まる危機到来のリスク
国有企業の業績回復は投資の拡大によるところが大きい。1~11月の固定資産投資は前年同月比+8.3%と前年実績(前年比+10.0%)をやや下回った。投資主体別にみると、民間投資が同+3.1%と低調であった一方で、国有投資は同+20.2%と高い伸びをみせたことから、国有投資が固定資産投資を支えたことがわかる。投資分野別にみると、上述した不動産開発投資に加え、インフラ投資も同+18.9%と好調であった。政府は、10月中旬からのわずか1カ月で、鉄道や道路など17件、投資総額3,536億元のプロジェクトを承認したとされるなど、投資拡大による景気の下支えに余念がない。

しかし、こうした投資主導の経済成長は、今後、試練を迎えることになろう。企業部門の抱える債務が急増し、金融システムが不安定化するリスクが高まっているからである。国際決済銀行(BIS)によれば、中国の企業部門が抱える債務は、2016年6月末に対名目GDP比167.6%と、過去に経済が危機的状況に陥った国を上回る水準にあり、銀行の破たんに象徴される危機到来のリスクが高まっている。

■金融政策は引き締めへ
昨年末に開催された中央経済工作会議においては、金融リスクの高まりを受け、金融政策を引き締めに転じる方針が示された。金融政策の基本的なスタンスは昨年同様「穏健」であるが、今年はそこに「中性」という注釈が付けられた。「中性」とは、米国の利上げにより流動性が低下することは回避するものの、債務問題をこれ以上悪化させないため、従来のように潤沢に資金を供給することはしないことを意味する。

拡張的な金融政策が維持不能となってきたことは、投資効率の低下からも明らかである。企業が保有する資産でどれだけの利潤をあげているかを示す総資産利潤率は、成長率が7%に鈍化した2012年から低下が続いている。なかでも国有企業の総資産利潤率は低く、私営企業の3分の1に過ぎない。国有企業は私営企業の2倍の資産を有するにもかかわらず、利潤はその6割に満たず、負債はその2.3倍に達する。国有企業に野放図に資金を提供すると債務問題をさらに悪化させる可能性がある。

■楽観を許さない債務の株式化
中国では国有企業の財務体質の健全化が喫緊の課題として浮上してきた。政府は、2016年9月、「企業のレバレッジ比率を積極的かつ確実に引き下げることに関する意見」を発表し、国有企業の債務を削減する方針を示した。それによると、①地方や所有制の壁を取り払った合併の推進、②遊休資産の売却や資産の証券化、③債務の株式化、④破産清算など、あらゆる手段を通じて債務を削減し、レバレッジ比率を引き下げるとされた。また、「市場化した銀行債権の株式化に関する指導意見」が付属しており、債務の株式化を柱に債務削減を進めようという意向が示された。

しかし、債務の株式化が政府の思惑通りに進むかは予断を許さない。中国では、90年代後半に債務の株式化が行われたものの、失敗に終わったというのが定評である。銀行から資産管理会社に1.2兆元の不良債権が移されたものの、回収率は17.4%にとどまり、その穴埋めを政府がすることとなったからである。政府は、業績回復の見込みのないゾンビ企業を債務の株式化対象としないため、同じ轍を踏むことはないとしているが、次の3点から紆余曲折が予想される。

第1は、ゾンビ企業の明確かつ有効な定義がない点である。政府は、3年以上損失を計上していることをゾンビ企業の条件のひとつとしているものの、企業業績は2016年に回復に転じた。「3年以上」に限定するとゾンビ企業の数は大幅に減少する。第2は、債務の株式化にかかわるのが国有企業と国有商業銀行である点である。政府は、債務の株式化は市場主導で進めるべきとし、対象企業の選定や債権価格について関与しないとしている。しかし、市場のプレイヤーは、前回と同様、国有企業と国有商業銀行である。彼らに任せれば機能するといえるほど中国の市場は成熟しているとはいい切れないのが実情である。第3は、転換社債が理財商品に組み込まれている点である。政府は、「市場化」という名目のもとで個人投資家が債務の株式化に参加することを歓迎するとしている。しかし、これが銀行の抱えるリスクを個人投資家に転換するだけに終わる可能性も否定できない。
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