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ESG投資を通じた女性活躍推進

2017年03月09日 橋爪麻紀子


 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の視点に配慮した投資活動であるESG投資が国内で浸透しつつあります。日本サステナブル投資フォーラムが国内機関投資家に対して実施した調査によれば、2015年に26.7兆円だった国内のESG投資額は2016年には約2.1倍の56.3兆円にまで拡大しているといいます。過去、ESG投資の対象先としては、環境面で積極的な取り組みを進める企業が目立ちましたが、近年では女性活躍推進を進める企業もESG投資の対象として注目を浴びています。国内投資家の直近の例では、日本生命保険相互会社が、2016年8月に、チリ国立銀行が私募形式で発行したウーマンボンド(女性活躍支援債券)に45億円を投資し、同年12月にはインド最大の民間銀行ICICIがTOKYO-PRO-BOND Market(注)で発行した女性活躍支援債券に30億円を投資したことを公表しました(注1)。これらの投資資金はいずれも投資先の海外金融機関が当該国の女性の社会進出や国内での社会的地位の向上に資する金融サービスを提供するための原資となるものです。

 海外投資家の間でもこうした女性活躍を進める企業への注目は高まっており、投資家にとって重要な投資パフォーマンスの視点からも、女性活躍を推進する企業に対する投資分析が進んでいます。2016年に米モルガン・スタンレー証券が発表した調査(注2)では、女性活躍推進が進む企業と同業種で進んでいない企業とを比較した際に、わずかではあるものの女性活躍推進が進む企業のほうが良いリターンが得られることが判明し、かつ、過去5年間において同業種平均より優れたパフォーマンスを示していたことが分かりました。また、英バークレイズ銀行は、最高経営責任者が女性であること、もしくは取締役会の女性比率が25%以上の米国上場企業を対象とした銘柄で構成される株価指数であるBarclays Women in Leadership Total Return Index(WIN)を2014年に公表しています。当該指数を米国主要企業で構成される株価指数であるS&P500 Total Return Indexと比較すると、2014年から過去5年間で、バークレイズのWINがトータルリターンで年率1.2%も上回っていたということが報告されています(注3)。このように、企業の女性活躍が進んでいることと、好業績に正の相関があるとの分析結果も出てきているのです。

 では投資家は何をもって「企業の女性活躍推進が進んでいる」と判断しているのでしょうか。一般的にはその多くは企業による開示情報に基づいたものと考えられ、最も活用されている評価指標には、取締役会の男女比率、管理職の男女比率、従業員の男女比率などが挙げられます。株価指数大手のMSCI社のデータに基づけば、2002年度から 2014年度の間で、従業員の男女比率を公開するグローバル企業は6%から50%まで増加しているといいます。この背景には2010年ごろから欧米の政府や証券取引所によって上場企業向けの情報開示制度が整備されたことがあると考えられます。わが国においても2015年6月より日本取引所が適用開始したコーポレートガバナンス・コード(注4)において、「女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保」が推奨されており、同年8月に閣議決定された女性活躍推進法においても従業員300名以上の企業に対し女性活躍に関する数値目標の設定が義務化されました。こうした流れからも今後、企業による女性活躍推進に関する情報開示が進んでいくことが想定されます。

 このように、企業の女性活躍推進状況に関する定量的な情報開示には大きな進歩が見られますが、当該分野に関心のある投資家からは、企業に対して今後さらに定性的な情報開示が求められるようになるのではないでしょうか。そうしたニーズに応えるためには、なにをもって女性活躍とするのかを投資家の視点で分解して考えることが得策でしょう。例えば、ESG投資の調査研究を行う米Croatan Instituteが世界女性基金や運用機関等と実施した報告書(注5)を参考にすれば、女性活躍の推進に関心のある投資家は、投資判断において次に挙げる3つの視点で女性の活躍を考えているといいます(*各視点の解釈については著者の私見に基づき補足)。

(視点1)その投資は女性の金融アクセスを向上できるか
 女性を応援する金融機関や基金等への投資活動を通じて、より多くの女性がエクイティや融資にアクセスできるようになります。こうした考えの背景には社会全体におけるジェンダーバイアス(例: 金融のことは女性よりも男性が取り扱うべきである、等の考え方)のために、女性が男性に比べて金融アクセス率や土地所有率が低かったという現状を理解していくことが重要です。例えば、     2014年時点の調査では、ベンチャー投資家はベンチャー企業によるピッチコンテストにおいて、女性起業家よりも男性起業家を好むという結果が出ています。こうしたジェンダーバイアスを克服するためにも投資家として重要な視点といえます。

(視点2)投資先の企業が就労環境における男女平等を実現できているか
 先述したように投資判断を行うにあたって、役員の男女比率、管理職の男女比率、従業員の男女比率、男女間の収入格差といった定量的な企業の評価指標は注目を浴びています。このような企業内だけでの取り組みに加えて、事業活動のサプライチェーン全体で考え、サプライヤー側の女性が賃金や働き方などによって不平等な扱いを受けていないか、といったことを企業のレピュテーションリスクの回避の視点から、重視している投資家も存在します。

(視点3)投資先の企業が女性に配慮した製品・サービスを提供できるのか
 これは投資先企業が生み出す製品やサービスによって世の中の女性がそのメリットを十分に享受しているか否かを指します。例えば、途上国の女性は「改良かまど」を入手することによって、薪集め労働の時間を節約でき、別の生産活動にも従事でき、黒煙による健康被害を軽減できます。近年、企業のCSV(共通価値の創出)といった、本業を通じた社会貢献が増えており、事業活動を通じて女性に対する社会的インパクトの創出を評価する視点も重要といえるでしょう。

 ここで取り上げた視点は、これから女性活躍に取り組む企業にとっても、すでに取り組んでいる企業にとっても、その活動内容を投資家に訴求するための情報開示の際に参考になるでしょう。

 わが国は今後さらなる少子高齢化や労働力人口の減少に直面し、中・長期的な視点から見て女性活躍の推進は必要不可欠な取り組みとして、今後もあらゆる組織で拡大していくことが想定されます。そして、それをさらに後押しする存在として、ESG投資の普及はこれまでの女性活躍推進の取り組みを加速させるドライバーとして捉えることができるでしょう。なぜなら、ESG投資家によって、女性活躍推進を進める企業の株や債券への投資が進めば、企業の株価や時価総額へも良い影響をもたらし、ひいては企業が女性活躍推進の取り組みをさらに行うという好循環が生まれることが期待できるからです。

(注)2008年の金融商品取引法改正で導入された「プロ向け市場制度」に基づく、プロ投資家向けの債券市場。国内外の発行体と投資家さらには証券会社の利便性を向上させるべく、従来のサムライ債発行に必要であった日本語での開示を不要とし、英語のみでの情報開示での発行を可能としている。

(注1) https://www.nissay.co.jp/english/news/pdf/20160822.pdf および  http://www.nissay.co.jp/news/2016/pdf/20161219.pdf
(注2) http://www.morganstanley.com/pub/content/dam/msdotcom/ideas/gender-diversity-toolkit/
Gender-Diversity-Investing-Primer.pdf
(注3) http://fortune.com/2014/07/08/barclays-women-invest/
(注4) http://www.jpx.co.jp/news/1020/20150513.html
(注5) http://www.trilliuminvest.com/wp-content/uploads/2015/11/Investing-for-Positive-Impact-on-Women1.pdf


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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