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日本のFinTechは、誰の困りごとを解決するのか

2017年03月14日 泰平苑子


 「銀行ATMを探さなくても、コンビニやスーパーのレジから預金を引き出せる」
そんな便利なサービスが、近いうちに実現するかもしれない。従来の金融サービスに大きな影響を与えるFinTechに関して、日本政府は前向きに検討している。金融庁の金融審議会「金融制度ワーキング・グループ」では、金融機関とFinTech企業とのオープン・イノベーションを進める制度的枠組みの整備が議論された。特に、銀行システムへ接続ができる「オープンAPI」や、決済・預金・融資の仲介サービスを行う「銀行代理業者」は、活発に議論されていた。

 では街中にATMがあり、ICカード型電子マネーも普及する日本において、「コンビニやスーパーのレジで、お金を引き出したい」と切実に思う人はどこにいるのだろうか。私は過疎地に住む人々、生活圏が限られる高齢者こそ、このサービスを求めていると思う。過疎地は都市部に比べ、銀行の選択肢や金融サービスは限定され、足腰が弱く生活圏が限られる高齢者は、月1でお金を引き落とし、日々やりくりしている。本当は様々な金融機関から最適な銀行を選びたいし、必要な時に必要な金融サービスを利用したいはずだ。この利用者の不利益や困りごと目線の議論が、日本は欠けているのではないか。

 日本政府や金融機関は欧米を手本としているが、見習うべきはインドにある。インドは2006年に銀行代理店業者やオープンAPIを整備し、金融サービスの普及に努めている。インドの地方や貧困地域は、識字率が低く、公的な信用や証明も難しいため、銀行口座保有率が著しく低かった。そのため、彼らへの補助金や年金などは現金支給されていたが、支給漏れや二重取り、自治体職員による不正が問題だった。また都市へ出稼ぎに出た親族や家族からの仕送りも大切な生活費であり、銀行口座の普及は重要な課題であった。インドの銀行代理店業者は、現地では「Business Correspondents(以下BCs)」と呼ばれ、銀行支店やATMが設置できない地方や、十分な需要が無い貧困地域で、銀行口座開設や金融サービスの提供を行う。BCsは、主に口座開設時や金融サービス利用時の手数料を収入源としている。

 私が訪れた、あるBCs事業者のサービスモデルはとても興味深い。
1.村のキラナ(パパママストア)が銀行支店になり、キラナのレジがATM代わり。
2.キラナ店主の携帯電話に銀行アプリをダウンロードして、銀行システムへリアルタイム接続。
3.暗証番号が覚えられないから、本人確認は指紋認証(以前は虹彩認証だった)。
4.モノの管理が苦手だから、通帳もカードも無い。利用履歴は店主の携帯で確認してもらう。
5.その日必要な分だけ買い物をするから、10ルピー(約17円)から引き落とし可能。
6.皆が困っていたから、金融サービスの他に保険加入・旅券購入・携帯チャージも提供。

 村の人々は「夫や息子が勝手にお金を使うので隠していたが、その必要が無くなった」「手持ちのお金が無い時、近所にお金を借りる恥ずかしさが無くなった」「子供の教育のため、貯金をはじめた」と言っていた。彼らの困りごとを解決するために、政府は制度を変え、BCs事業者はオープンAPIや最新認証技術を積極的に導入した。

 話を戻すが「日本のFinTechは誰の困りごとを解決するのか」を今一度、考えてみよう。車社会の過疎地なら、最寄りのガソリンスタンドが銀行代わりにならないか。高齢者なら、いっそ現金を使わず電子マネーを使い、家族は利用履歴を確認することで見守りにならないか。高齢者の後見制度で、財産管理によるトラブルを減らすためにPMFを活用してはどうか。過疎地や高齢者である故の金融サービスの問題を見直すと、FinTechだからこそ解決できることが見つかるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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