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アジア・マンスリー 2017年4月号

【トピックス】
東北地域経済の立て直しに注力する中国

2017年03月31日 佐野淳也


中国東北地域の経済は目下、他地域よりも厳しい状況に直面している。政府の新しい地域振興計画が立て直しにつながるのか否か、中国経済全体の持続的発展を展望するうえでもその動向が注目される。

■厳しい局面にある中国の東北地域経済
中国経済の下振れリスクとして、さまざまな要因が指摘されている。そうしたなか、2016年末の中央経済工作会議において、習近平政権は「一部の地域」の経済状況が「困難さを増した」との認識を示し、その解決に取り組む方針を表明した。具体名こそ示されなかったものの、経済指標の推移や新しい地域振興計画の公表などを勘案すると、東北地域(遼寧、吉林、黒龍江の三つの省および内モンゴル自治区の東部)が「一部の地域」に含まれる可能性が高い。

実質GDP成長率をみると、中国全体では緩やかな減速トレンドをたどりながらも、前年比+6%台後半の拡大ペースを維持している。ところが、東北地域の場合、遼寧省の成長率低下は顕著であり、16年には31の省・自治区・直轄市の中で唯一同▲2.5%と、1981年以来のマイナス成長になった。吉林省は16年こそ全国の成長率を上回ったが、黒龍江省とともに、14年からの3年間でならしてみると、全国を下回る成長にとどまっている。内モンゴル自治区については、全国を上回る成長が続いている。ただし、13年以降に限れば成長の鈍化を指摘できる。

輸出をみると、中国全体も15年、16年と2年連続の前年比マイナスとなったが、東北地域の4つの省・自治区の場合、両年とも、全国を上回る落ち込みであった。

産業構造転換や国有企業改革の遅れも指摘される。中国経済全体では、第2次産業から第3次産業への転換が進み、いまや第3次産業が中国のGDPの半分を占めている。ところが、東北地域の場合、第3次産業は50%未満にとどまり、吉林や内モンゴルは第2次産業の割合の方が依然大きい。遼寧と黒龍江は第3次産業の割合が第2次産業を上回っているものの、それは第2次産業の産出額が低迷したためであり、前向きな産業構造の転換を示すものとは評価しがたい。また、東北地域は、重厚長大型あるいは資源依存型の国有企業が地元経済のけん引役であり、雇用や財政収入の面でも大きな役割を果たしてきた。それ故、大胆なリストラに踏み切れないまま国有企業は経営難に陥り、その会社に依存してきた地元経済が厳しい局面に追い込まれたとみられる。

■東北地域の経済立て直しに関する新方針を発表
こうした状況を受け、国家発展改革委員会は2016年12月、「東北振興第13次5カ年計画」(以下「新東北振興計画」)を公表した。同計画の注目すべき特徴は、次の3点である。

第1に、経済の質的発展を重視して目標が設定されたことである。東北振興に関する過去2回の計画においても、成長率目標は示されなかったものの、主要目標に経済成長関連というカテゴリーが設けられるか、経済成長率を上回る1人当たり可処分所得の増加という目標が盛り込まれていた。これに対し、「新東北振興計画」では、2020年の1人当たり可処分所得の10年比倍増を盛り込んだものの、主要目標からは外された。その代わりに、1人当たりの労働生産性に関する数値目標が初めて掲げられ、成長スピードよりも発展の質を重視する姿勢が一段と際立っている。

第2に、国内外の他地域との連携強化が明記されたことである。国内では隣接する首都圏との連携強化に重点を置いている。東北地域の産業優位性等を勘案し、首都圏向けの農産物の供給地、一部の産業における生産拠点を目指す方針が示された。研究開発や観光など、幅広い分野での地域間協力も打ち出されている。海外では、国境を接するロシアおよびモンゴルとの経済協力回廊建設への積極的な参画を掲げた。

第3に、国有企業改革の推進を改めて確認したことである。従業員持ち株制度の導入、民間企業の出資受け入れ、適切な余剰人員対策の実施、などが具体策としてあげられている。過剰生産能力の削減や「ゾンビ企業」(経営破たん状態ながら、政府や金融機関の支援によってかろうじて存続している企業)の市場からの退出促進も、国有企業改革の一環と位置付けられる。

■立て直しを進めるうえでの課題
この「新東北振興計画」に沿って東北地域経済の立て直しが2020年にかけて進められる予定であり、政府の意気込みは感じられるものの、先行きについては楽観できそうにない。

例えば、国有企業改革においては、国有企業が経済・産業の根幹を担うという大原則は堅持されたまま、合併・再編を通じた国有企業の強化などの措置を先行させている。一方、民間資本の受け入れや民営化などは限定的なものにとどまっている。赤字国有企業の集中、退職者を含む従業員向け福利厚生の負担の重さが深刻な経営圧迫要因として指摘されている東北地域で果たして大胆な改革を実行できるのか不透明であり、その実行過程では激しい反発や抵抗を乗り越えていく必要がある。

計画ではほとんど触れられていないが、日本や韓国との連携強化も、東北地域の経済立て直しを進めるうえでのカギであり、難題でもある。日韓の技術・ノウハウが東北地域の産業高度化、あるいは企業再生につながるとの期待は根強い。連携強化によって、日本や韓国から東北地域を経由して中国全土、さらにはユーラシア大陸全域向けの貨物輸送が活発になれば、同地域が北東アジアの物流ハブとして発展することも期待できよう。もっとも、そのためには日本や韓国との安全保障面での対立が連携を阻んでいる現状を打開しなくてはならず、早期の実現は容易ではない。

こうした問題を克服しつつ、「新東北振興計画」が地域経済の立て直しにつながるのか、中国経済全体の持続的発展を展望するうえでのテストケースとして、今後の展開が注目される。
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