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アジア・マンスリー 2017年4月号

【トピックス】
「タイランド4.0」に向けた政策が具体化

2017年03月31日 大泉啓一郎


タイ政府が長期ビジョンを実現するための政策を具体化させている。デジタル化長期計画に続き、2017年2月には対象企業に最長15年間の法人税免除などの優遇措置を付与する新投資政策を発表した。

■「タイランド4.0」とは何か
タイ政府は、プラユット暫定政権の下で、長期経済開発計画を作成してきた。2015年には、タイが長期的に目指すべき経済社会のビジョンとして「タイランド4.0(Thailand 4.0)」が示された。

国家経済社会開発庁(NESDB)によれば、これまでの発展は次の3段階に区分される。第1段階(1.0)は農村社会であり、家内工業が中心となった時代で、いわば工業化以前のタイである。第2段階(2.0)は、戦後の天然資源や安価な労働力を活用した軽工業をテコに成長した時代である。そして第3段階(3.0)は外資企業の進出をテコにした重化学工業が中心となった1980年代後半から現在までの期間を指す。そして、タイが目指す第4段階(4.0)が「タイランド4.0」で、「イノベーション」、「生産性」、「サービス貿易」をキーワードとして持続的な付加価値を創造できる経済社会と定義された。

もっとも、タイ政府は、即座に「タイランド4.0」に移行できるとは考えていない。「タイランド4.0」は20年をかけた長期ビジョンであり、最終年に当たる2036年までの高所得国入りを目標としている。タイ政府が、高所得国への移行を、それも期限付きで明示したのは「タイランド4.0」が初めてのことである。1990年代後半に起こったアジア通貨危機以降、経済成長よりも安定を重視してきたことを勘案すると、大きな戦略転換である。

これは、タイ経済が「中所得国の罠」に陥っているのではないかという、タイ政府の危機感を反映したものである。中所得国の罠とは「天然資源の活用や外資企業の誘致などによって中所得国へと成長してきた途上国が、それまでの成長路線に固執して、産業構造転換の努力を怠れば、成長率は次第に鈍化し、高所得国に移行するのが困難になる」というものである。
たしかに2010~16年のタイの実質GDP成長率は年平均3.6%でASEAN諸国のなかで最も低い。また生産年齢人口(15~64歳)の比率はすでにピークアウトし、今後高齢化が加速度的に進むとみられる。

タイ政府は「タイランド4.0」を担うターゲット産業として、①次世代自動車、②スマート・エレクトロニクス、③医療・健康ツーリズム、④農業・バイオテクノロジー、⑤未来食品、⑥ロボット産業、⑦航空・ロジスティック、⑧バイオ燃料とバイオ化学、⑨デジタル産業、⑩医療ハブの10産業をあげ、短・中期、長期に区分して育成する計画である。

■デジタル経済社会を促進
「タイランド4.0」の実現にはデジタル技術の活用が鍵を握る。とくにインターネット環境の整備とスマートフォンの普及が進むなかで、タイ経済社会はデジタル技術の活用で大きく変化しつつある。たとえば、口座番号を必要とせず、携帯電話を通じて個人間の送金を行う「プロムペイ」が2017年1月からスタートしている。

タイ政府は、「タイランド4.0」に合わせた計画として、2016年4月に「タイ・デジタル経済社会開発20カ年計画」を採択した。これは、①生産性の向上、②所得格差の是正、③雇用の拡大、④産業構造の高度化、⑤ASEAN経済共同体でのハブ的役割、⑥政府のガバナンス強化を目標とするもので、そのなかで①1年半後、②5年後、③10年後、④20年後に目指すビジョンも示された。なお、同計画を執行するために情報通信技術省は2016年9月、「デジタル経済社会開発庁」に改組された。

■新投資戦略「オポチュニティ・タイランド」
2017年2月15日、バンコクで「オポチュニティ・タイランド」と名付けた大規模な投資セミナーが開催された。セミナーの冒頭で、プラユット首相は「タイランド4.0」を説明すると同時に、その実現に資する外国企業の投資に過去最大の優遇措置を付与する新投資戦略を明らかにした。バンコク東部に位置するチョンブリ県、ラヨン県、チャチュンサオ県の3県を「東部経済回廊(EEC)」として投資優遇地とし、当該地域の投資には最長8年間の法人税免除に加え、その後5年間の法人税50%免除が受けられる優遇措置を発表した。また、政府は、インフラ整備、ターゲット産業育成、観光促進などに今後5年間で1兆5,000億バーツ(約4兆5,000億円)を超える予算を投じる。

他方、首相自らが委員長を務める「ターゲット産業に関する国家競争力強化委員会」を設置し、タイ投資委員会(BOI)の優遇措置を超える誘致策を別途検討する。たとえば、同委員会で対象企業と認められた場合は最長15年間の法人税免除が可能になる。また同委員会は、国家競争力強化基金(総額100億バーツ:約300億円)を運営し、ターゲット産業の育成を支援する。さらに、ターゲット産業に関する外国人専門家には、個人所得税を一律17%とすることを検討している(タイの個人所得税は累進課税で最高税率は35%)。

これらの新投資戦略が「タイランド4.0」の実現にどれほどの効果をあげるかは定かではないものの、東南アジアで最大の集積地をタイに形成している日本企業にとっては、生産拠点あるいは販売拠点の競争力強化の観点から同戦略を有効に活用すべきであろう。
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