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世界から見た、日本企業とスタートアップの連携の可能性

2017年04月25日 菅野文美


 「大きな魚が小さな魚を食うのではなく、速い魚がのろまな魚を食うのではないか」スタートアップ関連のイベントで耳にする、大企業とスタートアップの関係を揶揄した論理だ。

 例えば、米ビデオ・DVDレンタルチェーンのBlockbustersは、2001年にオンラインDVDレンタルおよび映像ストリーミング配信事業会社のNetflixから、同社を5000万ドルで買収する機会を提案されたにもかかわらず、その提案を拒んだ。2010年にはオンライン映像ストリーミングの台頭によって倒産に追い込まれた。Netflixの時価総額は2017年4月11日時点で620億ドルにのぼる。

 しかし、いまや世界トップの上場企業の間では、スタートアップ連携は常識になりつつある。「フォーブス・グローバル2000」の上位100社のうち68社はスタートアップと連携しているという。当該調査を実施したINSEAD(世界のトップビジネススクール)と500 Startups(米有力ベンチャーキャピタル)によれば、大企業は、イノベーションの早期発掘、企業文化の形成、新規市場の開拓など様々な目的のもと、(1)イベント、(2)サポートサービス、(3)スタートアップ・プログラム、(4)コワーキング・スペース、(5)アクセラレーター&インキュベーター、(6)スピンオフ、(7)投資、(8)M&Aの主に8つの手法を用いてスタートアップと連携している(※1)。

 日本企業は「自前主義」というイメージが強いが、実は世界的に見ても、スタートアップ連携に積極的である。「フォーブス・グローバル2000」の上位500社に入る日本企業44社のうち56.8%はスタートアップと連携している。フランス企業のスタートアップ連携率92.0%には及ばないものの、米国企業の45.5%よりも高い。ベンチャー企業情報のデータベースを提供するジャパンベンチャーリサーチによれば、日本企業によるベンチャー投資は、2009年以降増加の一途をたどり、2015年には日本におけるベンチャー投資総額の59.5%を占めるまでになった。日本企業は、日本におけるスタートアップ・エコシステムにおいて、最も重要なプレーヤーであると言っても過言ではない。

 ただし、日本企業によるスタートアップ連携の特徴として、投資という手法への偏りが挙げられる。INSEADと500 Startupsによれば、スタートアップ連携をしている日本企業25社のうち21社がCVCを通じてスタートアップに投資をしていた。確かに、投資は、収益といった財務的目的だけでなく、新事業創出やバリューチェーン強化などの戦略的目的に適した手法だと言える。

 しかしながら、このような戦略的目的の達成は容易でない。特に日本企業が直面する主な課題として、投資先候補不足、人材不足、企業トップのコミットメントが挙げられよう。企業はある程度成熟したスタートアップに投資する場合が多い。しかし、日本には、シード段階のスタートアップの成長を効果的に支援するアクセラレーター等がまだ少ない。また、スタートアップの目利きやハンズオン支援ができる社内人材も不足している。さらに、投資に必ずしも慣れているわけではない経営者の場合、戦略的・財務的目的の達成に時間がかかる中、CVC活動の継続に必要なトップのコミットメントを得ることが難しい。

 一方で、世界で最もスタートアップと連携しているフランス企業に目を向けると、各社が複数の連携手法を活用している。起業家精神に富んだ企業文化の形成、将来の取引先・買収先の早期発掘・育成などの目的によって、ピッチコンテストやスタートアップ・プログラムなど、低リスクかつ低コストな手法を使い分けているのだ。

 最近、一部の日本企業もスタートアップとの連携手法の多角化を進め始めている。例えば、リクルートホールディングスは、テクノロジーを通じてイノベーションを起こすエンジニアを支援するコミュニティスペース「TECH LAB PAAK」を2014年から運営しているが、2016年にはシリコン・バレーのイノベーション施設「Innovation Factory」との相互利用サービスを始め、2017年1月にスタートアップとリクルートが協働して新規事業を開発するプログラム「MEET SPAAK」を開始した。三井住友銀行は、2016年にオープンイノベーションを目指して事業コンソーシアム「Incubation & Innovation Initiative」を日本総研と発足させ、アクセラレーター・プログラム「未来」を運営しているが、2017年4月には福岡地域戦略推進協議会と連携して地域のスタートアップを支援する「Fukuoka Mirai Incubation Program」を開始した。両社とも、スタートアップの成長に必要な資金やサービスなどを補完し合える様々な外部パートナーと連携している。

 今後、日本企業によるスタートアップとの連携手法の多角化と様々な外部パートナーとの連携が進むためには、日本におけるイノベーションを促進するためのエコシステム構築が急務である。

(※1)Arnaud Bonzom & Serguei Netessine
“How do the World’s Biggest Companies Deal with the Startup Revolution?” Feb 2016
(http://cdn2.hubspot.net/hubfs/698640/500CORPORATIONS_-_How_do_the_
Worlds_Biggest_Companies_Deal_with_the_Startup_Revolution_-_Feb_2016.pdf)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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