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アジア・マンスリー 2017年6月号

【トピックス】
水面下で悪化が進む韓国の雇用環境

2017年05月19日 松田健太郎


韓国では、全体の失業率の上昇が緩やかに進むなか、若年層の失業率の上昇や長期失業者の増加など雇用の実態は見かけ以上に悪化している。文在寅新政権は、これらを念頭に置いた対策が求められよう。

■景気回復が進むも雇用環境に不安要因
韓国では、景気回復基調が続いている。国内の政局混乱や地政学リスクから先行きの不透明感が高まったものの、足元では輸出を原動力とした成長パターンに戻りつつあり、当面底堅い成長が続くと予想される。

一方、消費の源泉となる雇用・所得環境をみると、企業の構造調整などを受けてリストラが行われたにもかかわらず、2016年の失業率は3.7%と前年から緩やかな上昇にとどまった。もっとも、雇用指標を詳細にみると、雇用環境の実態は統計以上に悪化しているとみられる。とりわけ二つの面で悪化が進んでいる。

■若年失業率の上昇
第一に、若年層(15~29歳)の失業率の上昇である。若年層の失業率は、2016年に9.8%と全体失業率を大幅に上回る高水準となっている。14年に、9%台まで一気に上昇し、その後も上昇が続いている。急上昇する以前の13年と比較すると、労働参加率は43.2%から46.9%に上昇しており、労働力人口の増加が失業増をもたらしている。労働参加率が上昇した背景には、女性の就職希望者の増加などの要因が一部あるとみられるものの、13年以降の景気回復に伴い就職を目指す若年層が増加したほか、大学進学率の低下にみられるように高校卒業後に就職する若者が増加したことが原因とみられる。労働参加率が上昇する一方で、若年失業率が急上昇したことは労働市場へ出ても、仕事が見つからない若者が増加していることを示している。

こうした背景には、そもそも求人が少ないことが挙げられる。新規求人倍率は、0.6倍前後と、新規求職者数に対して求人件数が大幅に不足している。14年以降、求人倍率は一進一退の状況が続いており、足元では大企業が構造調整の一環で新卒採用人数を抑制しているほか、造船や海運などの業種でのリストラ、各社の事業効率化に向けた不採算部門の縮小の動き、等を踏まえれば、労働需給の早期改善は期待できない。

さらに、雇用のミスマッチも深刻化している。近年の韓国では、大企業などの条件の良い雇用に就職希望が集中する一方、大企業は構造調整やグローバル化の進展による事業所の移転を受けて新規採用人数を減少させている。他方、中小企業は慢性的な人手不足が続いている。この背景には、大企業と中小企業の賃金格差が大きく、2016年の中小企業の平均月収は305万ウォンと大企業の497万ウォンと比較して6割程度にとどまっていることがある。また、非正規での就業を避ける傾向も強い。非正規の賃金は正規の5割と条件が悪い。そのため、求職しているにもかかわらず、低賃金職しか見つからないことから、あえて就職を選択しない失業者が増加しているとみられる。このほか、定年年齢の引き上げに伴い、高齢者の雇用吸収により若年層の雇用機会が奪われている可能性もある。

この結果、おおむね若年層とみられる就業経験のない失業者の増加基調が続いている。17年3月時点には14.4万人と過去最高となった。就業経験のない失業者は、経験のある失業者と比較しても就業が困難とみられ、後述する長期失業者に転じる可能性も大きい。若年層での雇用環境の悪化は、政府・企業に対する不満を高める可能性がある。

■労働市場から退出する動きも
第二に、失業者の「質」の変化である。近年、労働力人口のうち6カ月以上就職できていない長期失業者が急速に増加している。失業者に占める割合は13.1%に達しており、02年以来の水準となった。労働需要の改善が進んでいないほか、企業が採用基準を引き上げ、短期失業者への選好を強めている可能性がある。このように長期にわたり就業できない状況が続けば、キャリア不足から就業機会がさらに減少する恐れがある。

実際、足元では求職を断念し、非労働力人口になる求職断念者数が増加している。17年1~3月の月平均は、51.8万人と過去最高の水準となった。若年層の労働参加率の上昇や大卒以上の非労働力人口の増加を踏まえれば、転職が難しい30歳以上の世代が労働市場から退出している可能性がある。彼らは子育て世代であるため、消費に与える影響も無視できない。

なお、求職断念者が再度職探しを始めた場合、失業率の押し上げにつながる。求職断念者数を潜在的な失業者とみなして、失業率を試算すると、16年は5.3%と公表値(3.7%)から1.6%ポイント高くなる結果となった。

■雇用問題の解決は新政権にとって急務
このように失業者の質の変化や統計上失業者に含まれなくなる求職断念者の増加は、韓国の雇用実態が見かけ以上に悪化していることを示唆している。韓国では今後高齢化が加速するにもかかわらず、現状では若年層の労働意欲を十分に活用できていない。また、長期的に就業先がみつからないことは子育て世代の所得不安にもつながりかねない。こうした問題が解消されなければ、中長期的な成長力の低下だけでなく、社会的な不安を増大させるリスクが高まっていくと予想される。新政権は単なる雇用創出の政策推進にとどまらず、雇用にまつわる問題の全体を見据えた成長戦略の断行と労働市場の抜本的な改革が求められよう。
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