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「過去形」で考える未来

2017年06月23日 石野幹生


未来時制の無い日本語における未来表現の方法
 日本語には未来時制が無い。数時間後や数日後といった短期的な未来のことであれば、未来を表す副詞と現在形の組み合わせで表現することができる。「本日○○時に、××します」「○月○日に、△△します」といった具合だ。
 ところが、5年~10年以上先の中長期的な未来のことになると、ある仮定に基づく未来像を仮説、推量、計画、願望として考え、表現することが多い。このことは「~だろう」「~かもしれない」「~が予定されている」「~が計画されている」「~したい」「~するつもり」といった助動詞や文末表現に象徴的に現れてくる。
 不確実性の高い未来を表現するためには仮定を置く必要があるため、こうした仮定的な未来表現になることは当然のこととも考えられる。

仮定的未来表現の問題点
 仮定的未来表現では、ある未来像を表現する過程で様々な仮定が思い浮かび、当初発想した未来像がより発展していくといった効果が期待できる。一方、仮定を重ねることで何でも言えてしまうという面もある。
 個人で夢や目標を語るだけであればそれでも良いだろうが、企業で新しい事業のアイデアや将来のビジョンを考えるといった際には問題が生じる。仮定を重ねることで仮定そのものが不明確で検証困難になったり、仮定に甘えてしまって不確実な未来のアイデアを「自分ごと」にできなかったりする危険性がある。結果として、未来像の実現性が乏しいと判断されてしまうことにもなりかねない。
 こうした問題点を回避するためには、表現したい未来像の前提となる仮定を明文化しておくことが不可欠だ。例えば、未来デザイン・ラボが提供する「未来洞察アプローチ」(*1)では、内的環境(自社もしくは自社の業界・産業)に関する仮定を「未来イシュー」、外的環境(自社の外側に存在する未来の可能性)についての仮定を「想定外社会変化仮説」としてそれぞれ明文化し、創発されるアイデアがどのような仮定の重なりに基づくものかが再現可能になるように工夫している。
 しかし、仮定を明文化するだけでは仮定の不明確さはある程度回避できたとしても、自分事化できない問題に対しては不十分なことが多い。不確実な未来のアイデアを「自分ごと」にするためには仮定的未来表現以外の方法で未来を発想し、表現することも視野に入れるべきだろう。

過去形での未来発想
 そこで視点を変え、現在形や仮定的未来表現ではなく、過去形で未来を発想してみてはどうだろうか。一見、そんなことがあり得るのかという印象を持たれるかもしれないが、SF小説などで日常的に用いられている手法でもある。
 現実にはまだ起こっていない事象であったとしても、過去形で語られるとその内容があたかも事実のように受容され得ることを多くの人が経験したことがあるはずだ。いわば未来像を断定的に仮定してしまうわけだ。そうすることで強制的に視点を未来の時点に移し、現在との差分から未来像に至る道筋や仮定を明確にすることが可能となる。
 過去形での未来発想を実践するには少しの想像力が必要だ。思い描いたアイデアや未来像がすでに実現した世の中を想像してみる。例えば、10年後の未来像を自社への影響を軸に考えるのであれば、10年後の自社に勤める10歳年をとった自分、10年後の自社に入社してくるであろう現在の中高生などを前提に具体的にイメージするだけでも、未来像を具体的にイメージできるようになり、自分事化できるようになる。

過去形での未来発想による創造的バックキャスティングのすすめ
 過去形での未来発想はバックキャスティングの考え方に通じる。未来の環境制約を決める規範的バックキャスティングに対して、創造的バックキャスティングと言ってもいいだろう。例えば、以下のようなイメージだ。
・○○が実現し、普及した。(過去形で発想した未来アイデア)
・そのためには、△△な環境が整えられている必要がある。(仮定/課題1)
・その環境を整えるためには、■■と××が参画して、(仮定/課題2)
・◎◎が開発されている必要がある。(仮定/課題3)
 このように、未来に視点を置き、そこから現在を過去のものとして表現することで、未来像を発想する起点となる「仮定」は検証すべき「課題」として認識できるようになる。
 新しい事業のアイデアや将来のビジョンを考える際に、過去形での未来発想による創造的バックキャスティングを取り入れてみてはいかがだろうか。

(*1)未来洞察アプローチの詳細については、未来デザイン・ラボwebサイト内「アプリケーションと事例紹介」を参照されたい。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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