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アジア・マンスリー 2017年7月号

【トピックス】
インドネシアの投資主導経済への移行は可能か

2017年06月21日 塚田雄太


インドネシアは、豊富な資源に安住して経済構造改革を後回しにしてきたため、投資主導の高成長を実現できていない。改革に積極的なジョコ政権の実行力と継続性が注目される。

■投資主導成長から取り残されたインドネシア
インドネシアは、所得水準からみた成長余力や人口規模、高い若年人口割合から市場の拡大期待が強いものの、これまでのところ高成長が実現していない。2005年にインドネシアと同程度の所得水準(約1,500ドル)であった中国は、その後10年間にわたり、年率+10%近い高成長を続けたのに対し、インドネシアは平均+6%弱にとどまったため、足元で所得格差が2倍以上に拡大している。

この違いは、投資主導の経済成長を実現できたかどうかに起因する。経済活動水準は労働と資本の投入量に左右されるが、一般に発展途上国では、安価で豊富な労働力を抱えるものの、資本ストックが不足していることが多い。このため、設備投資や公共投資を積極化すれば、成長率が高まりやすい。05年以降の投資比率(実質ベース)をみると、中国では40~48%に達したのに対し、インドネシアでは25%程度で横ばいであった。マレーシアやタイでも90年代前半の高成長期に投資比率が40%台まで上昇した。このように、インドネシアが高成長を実現できなかったのは、投資主導型成長モデルに移行できていないことが大きい。

インドネシアの投資比率が低迷している主因は、資本財価格の上昇にある。総固定資本デフレーターは08年から16年にかけて+82%上昇した。しかし、最終消費デフレーターやGDPデフレーターの上昇率は、それぞれ+54%と+55%であった。この結果、インドネシアの投資比率は、名目ベースでは08年から着実に上昇し、15年には34.7%に達したものの、実質ベースでは上記の通り横ばいにとどまった。すなわち、金額ベースの投資量は十分であるにも関わらず、それが実質的な成長力の向上には結びついてこなかった。また、資本財価格の上昇により、投資コストが割高になり、投資コストを回収しにくい環境となったため、企業が設備投資に躊躇したことも一因となった。

■背景には通貨の大幅下落と投資財の供給力不足
資本財価格が上昇した背景には、以下の2点を指摘できる。
第1に投資財の供給力不足が挙げられる。インドネシアは、過去、資源依存型の経済発展をしてきたため、資本財製造業の産業基盤は脆弱なままとなっている。ASEAN主要国の機械・装置業の対名目GDP比をみると、インドネシアは0.5%程度であり、2~3%台のマレーシアやタイとは大きな開きがある。このため、企業は、設備投資をするためには、機械・装置などを輸入で調達する必要があった。また、インフラ整備などに使われる鉄も供給力不足が明らかである。インドネシアの粗鋼消費量は08年から15年に307万トン増加した一方、この間の粗鋼生産量は94万トンしか拡大しなかった。そのため、増加した粗鋼需要の3分の2以上は輸入によって補われる結果となった。こうした投資財の供給力不足が、以下で示す通貨下落とあいまって、総資本形成デフレーターを押し上げたのである。

第2に通貨の大幅下落である。インドネシアの名目実効為替レートは、08年から16年にかけて20%減価した。同時期に増価したタイや、ほぼ横ばいであったフィリピンとは対照的である。マレーシアの通貨も15、16年に大きく下落したものの、下落幅は▲12%にとどまった。この結果、インドネシアでは資本財の輸入価格が大きく押し上げられることになった。

昨年以降の通貨下落は、リーマンショックにより投資家がリスク回避姿勢を強め、新興国から資金を引き揚げたことが直接の引き金である。しかし、新興国のなかでもインドネシアの下落幅が特に大きくなったのは、それまでの資源依存型経済が限界に行き当たり、インフレ率上昇と経常収支赤字拡大への圧力が高まったためである。

以上から考えると、インドネシアの資本財価格上昇の本質は、豊富な資源に安住し、製造業の育成や物価安定策などの経済構造改革を長らく後回しにしてきたことに求められる。したがって、インドネシアが投資主導の経済成長を実現するには、まず、国内産業基盤を強化するような構造改革が必要となってくる。とはいえ、構造改革を自力で進めるには、資金力や技術力の面で困難を伴う。そのため、他のアジア諸国同様、積極的な外資の導入を図っていくことが不可欠である。

■ジョコ政権の改革実行力と継続性に注目
14年10月に発足したジョコ政権は、インドネシアをより高い成長に導くために、外資誘致を目的としたビジネス環境整備など様々な経済構造改革に取り組んできた。例えば、インドネシアではインフラ不足が外資が進出する上での課題と言われてきたものの、財源不足がインフラ整備を妨げてきた。ジョコ政権は就任直後に大きな財政負担となっていた燃料補助金の大幅削減を実施し、インフラ関連予算の拡大を成功させた。

しかし、成果に結びついた政策はまだ少なく、ジョコ政権の改革は道半ばといえる。インフラ整備では、政府の予算ベースでは執行されているものの、実際の工事の進捗は予算の執行ペースを下回っているとの指摘が多い。そもそも、外資のインドネシアの投資環境に対する不信感は、そう簡単に払拭されるものではない。インドネシアでは歴代の大統領も経済構造改革や投資環境整備による外資誘致を政権公約に掲げてきた。しかし、いざ政権に就くと、改革案が既得権益層からの反発によって骨抜きにされることが多くあった。

政権支持率が安定し、世界経済が回復傾向をたどるなかで、インドネシアにとって、現在は投資主導経済を実現するまたとない機会である。外資導入が広がり、投資比率上昇に向かうかどうかを占ううえでも、ジョコ政権の改革実行力や継続性が注目される。
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