コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

【シニア】
第21回 ギャップシニアのニーズの順番

2017年06月27日 沢村香苗


私たちが「ギャップシニア(注1)市場の創造」を目指し、ギャップシニアコンソーシアム活動を始めて2年半がたちました。たくさんの方と一緒にトライアルを続けていますが、「ギャップシニアのニーズとは結局何なのか」という疑問に対して、腑に落ちる回答を提示できずにいます。今回は、このもやもやについて考えてみたいと思います。


(注1) ギャップシニアとは、元気高齢者と要介護高齢者の間の高齢者を指す日本総研の造語です

 「膝の痛みによって階段の上り下りに苦労している人」「むせなどによって飲み込みに困難を感じている人」といった困りごとを持つ人の数については、日常生活圏域ニーズ調査等の既存データから推定することが可能で、そういう意味ではニーズは見えています。
 それなのに、なぜ「見えない」と言われるのでしょうか。その1つの原因は、ニーズを踏まえた(はずの)提案に対し、反応する高齢者が想定より少ないことです。「データ上は必要としている人は多いはずなのに、なぜ売れないのか」と感じている企業は多いでしょう。ギャップシニアという新たな切り口に対して、既存の調査では把握されていない、未知のニーズが発見されるのではないか、という期待が寄せられることが多いのは、このためだと思います。


 ここでいったん既存のデータは忘れて、実証拠点を訪れるギャップシニアの発言や行動データから、虚心坦懐にニーズを探ってみましょう。すると、「健康・美・楽しみを維持したい」「新しいものと出会いたい」「主体的に行動し、貢献・承認されたい」が三大ニーズとして表出されていることが分かります。有名なマズローの欲求(注2) 段階説での安全欲求、社会的欲求だけでなく、尊厳欲求や自己実現欲求に関連するものが多くを占めています。ギャップシニアはそれぞれが長い歴史を持った成人ですから、こうした高次のニーズが主体になるのは当然です。
 しかし、これまでの多くの高齢者向け商品やサービスは、より低次のニーズ(安全欲求、生理欲求)に対応する機能が強みであり、訴求もその機能がいかに優れているか、に重点が置かれてきました。供給側が想定しているニーズ、見たいニーズが低次のものの場合、ギャップシニアはこれらの機能を最初に訴求されても興味を示さないということが分かってきました。

(注2) 欲求とニーズの違いは諸説ありますが、ここでは厳密に区別しません


 ギャップシニアは元気高齢者と要介護高齢者の間の状態ですから、さまざまな身体的・認知的機能低下を経験し、困りごとを多く抱えています。しかし、長年、無意識に何の苦労もなく満たされてきた低次のニーズが、今や欠乏状態にあることに気づきにくく、気づいてもお金を払ってまで、それを満たすほどに優先順位を上げません。例えば、元気なうちは「自由に歩けること」は長らく自然なことだったからこそ、歩行補助具を購入することに抵抗感が生じるのです。総じて、困りごとにフォーカスした商品・サービスに対して動きにくいのがギャップシニアの特徴だと考えられます。

 では、どうすればこのすれ違いを解消できるでしょうか。私は2つのことが重要だと考えています。
 1つ目はアプローチの順番です。ギャップシニアがまず充足させたいのは、先に述べたとおり高次のニーズです。たとえば膝が痛くでも操作できる高齢者用自転車を新たに使いたい、と思わせるためには、「膝が痛い人でも乗れる!」という機能の訴求の前に、その自転車に乗れたらどんな高次のニーズが満たせるのか、を提示することが有効だと考えられます。行動範囲が広く、生き生きと美しい人でありたいというニーズを実現するための一つの要素として、化粧品やシニアジムと並んで高齢者用自転車が含まれるといったアプローチの順番です。そこでの商品の第一の価値は、行動範囲が広く、生き生きと美しい自分が実現できることであって、膝の痛みをカバーしてくれる機能性の高さではありません。
 実はこの考え方は高齢者以外に対してのマーケティングでは当たり前のことです。「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という言葉があるくらいです。顧客に届く提案をするには、顧客が達成したい目標は何かを理解しなければならないということです。
 
 私はここに真の課題があると考えています。高次のニーズつまり自己実現欲求や承認欲求を満たしながら生活したいというニーズは間違いなくあるとして、それが具体的にどのような生活なのか(どのような達成目標なのか)については当事者であるギャップシニアを含めて誰も知らないのです。すれ違いを解消するための方法の2つ目が、この誰も知らない生活イメージの提案ということになります。日常生活に制限のある「健康ではない期間(平均寿命と健康寿命との差)」は、2013年の厚労省の推計では男性9.02年、女性12.40年です。この長い期間をどう生活することが自己実現欲求や承認欲求を満たすことになるのか、というイメージを数多く提案することによって、ギャップシニアの高次ニーズの扉が開き、その先にやっと、「そのために手前でクリアしなければならないこと(=低次のニーズ)」が優先課題として見えてくることになるでしょう。遠回りのようですが、人生後期における希望の多い生活イメージが提示されることは、高齢者にとってだけでなく、若年者にとっても重要なことではないでしょうか。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
IKUMA Message
カテゴリー別

業務別

産業別

レポートに関する
お問い合わせ