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アジア・マンスリー 2017年8月号

【トピックス】
中長期的な増加が期待されるインド人の訪日客

2017年07月21日 熊谷章太郎


2016年のインドからの訪日客数は年間12万人とアジア主要国の中で最も少ない。もっとも、人口増加や所得水準の高まりなどを背景に2030年代には100万人程度にまで増加すると見込まれる。

■ポテンシャルの大きさにも関わらず、足元の訪日客数は少数
外国人訪日客数は、①ビザ要件の緩和を含む訪日客誘致に向けた様々な施策の実施、②アベノミクス始動後の円安進展、③アジア諸国の所得水準の上昇、などを背景に2012年以降増加傾向が続いており、2016年は過去最高の2,400万人に達した。政府は、今後、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催を機に訪日観光の魅力をアピールし、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人に訪日客を増加することを目指している。

観光庁は訪日客数の一段の増加に向けて、アジアや欧米の20ヵ国・地域を重点地域に設定し、観光誘致に向けた様々な施策を展開している。この対象国にはインドも含まれている。同国は人口の多さや今後の中間層の拡大余地といった観点から、中国とともにとりわけ大きなポテンシャルを抱えている。もっとも、インドの人口は13億人にも関わらず、同国からの2016年の訪日客数は12万人と、アジア主要国からの訪日客の中で最も少なかった。2030年やさらにその先を見据えて訪日外国人をさらに拡大していくためには、インド人の誘致強化が極めて重要なポイントである。

インドからの訪日客の特徴としては、まず観光客比率の低さを指摘できる。世界全体からの訪日客の85%程度が観光客であるのに対し、インド人の訪日客数における観光客数は2割程度にとどまっており、商用や公用目的での訪日が大半を占めている。また、観光目的のインド人訪日客数の8割以上は初回の訪日であり、他国と比べてリピーター比率が顕著に低くなっている。この他、労働市場における女性の社会進出が遅れていることを背景に、ビジネス客における男性比率が特に高く、また東京を中心とした首都圏への訪問割合が高いなど、インドからの訪日客の構造は他国と大きく異なっている。

同国からの訪日客数が他国と比べて少ない要因としては、以下の5点が挙げられる。第1に、地理的な距離の遠さである。日本とインドの距離は5,000キロ以上あり、韓国、中国、台湾などの北東アジアの国・地域からの訪日と比べると必然的に旅費が高く、所要時間も長くなる。第2に、インドの所得水準の低さである。2015年のインド人の旅費と滞在費用を合わせた総訪日費用は25万円程度となっているが、これは同国の2016年の一人当たり名目GDP(1,616ドル、約19万円)よりも高い水準である。第3に、経済的な繋がりの薄さである。日本の貿易・投資の主要相手先は中国、タイ、台湾、韓国などの北東・東南アジアであるため、インドからのビジネス客数も相対的に少なくなっている。第4に、訪日ビザの取得に関わる手続きの煩雑さである。2016年に数次ビザ発行などの緩和措置がとられたものの、旅行日程表や滞在中の費用負担能力の証明書など各種書類の提出が必要とされている。第5に、日本国内の受入環境の未整備である。食事に制限のあるヒンドゥー教徒・イスラム教徒に対応したレストランが限られることや、観光産業に従事する人材の英語対応能力の不十分さなども同国からの訪日の制約要因となっていると考えられる。

■訪日客数は2030年代に100万人程度に増加
今後のインドからの訪日客数を展望すると、①生産年齢人口を中心に人口の増加基調が続くこと、②経済成長に伴い海外旅行を楽しむ中間所得層が拡大すること、などを主因に、増加基調が続くと見込まれる。アジア各国の所得水準と出国率(年間出国者の総人口比率)の関係や、今後のインドの経済成長率や人口動態に関する予測をもとに今後のインド人訪日客数を試算してみると、2030年代後半に100万人前後と、現在のタイからの訪日客数を上回る規模まで増加すると見込まれる。この頃にはインドの人口が世界1位になる見通しであるため、中国を上回る潜在需要を抱えることになる。なお、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催は、日本の魅力をアピールする絶好の機会であるものの、2008年の北京オリンピック、2012年のロンドンオリンピックの前後で開催国へのインド人訪問者に大幅な増加が見られなかったことを踏まえると、五輪開催の効果に過度の期待は禁物といえる。

今後、インドからの訪日客を前倒しで増やすためには、より魅力的な訪日プロモーションの展開や受入環境の整備を進めていくことが重要である。訪日プロモーションについては、日本の魅力を海外に発信するため、アニメ、ドラマ、ファッションなど様々なコンテンツの輸出促進する“クール・ジャパン戦略”を官民共同で展開しており、同戦略におけるインドに関連する取り組みを意識して強化していくことが、将来のインド人訪日客の増加に繋がると期待される。
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