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アジア・マンスリー 2017年8月号

【トピックス】
先行き不透明感強まる一帯一路

2017年07月21日 三浦有史


中国の対外直接投資が減少するなか、一帯一路沿線諸国向けの投資は堅調である。しかし、政策金融機関がリスク回避の姿勢を鮮明にしたことから、リスクの高い同諸国向け投資は今後停滞すると見込まれる。

■対外直接投資に急ブレーキ
中国の1~5月の対外直接投資(金融除く)は前年同期比▲53.0%の346億ドルと低調である。中国の対外直接投資は、2014年にわが国を上回り、米国に次ぐ世界第二の規模に達するなど、順調に増加してきたが、ここに来て急にブレーキがかかったかたちとなった。商務部は国・地域別および分野別の内訳を明らかにしていないことから、その原因ははっきりしないものの、不動産などの一部の投資が見送られたことが影響したと推測される。

この背景には、政府がリスク回避と資本流出の抑制という観点から対外直接投資の見直しを始めたことがある。国家発展改革委員会、商務部、人民銀行、外為管理局は、2016年末の共同記者会見において、不動産、ホテル、映画館、娯楽、サッカークラブに対する投資を注意深く監視するとした。政府は、これらの投資はリスクが高いにもかかわらず、債務を大幅に積み増している企業があるとして、強い不快感を示した。また、投資という名目で資本を海外に移している企業や身の丈に合わない投資をしている企業に対する監視も強化している。中国では、設立間もない海外の子会社に矢継ぎ早に送金する「快投快出」や、海外の子会社が借入によって投資を拡大する「母小子大」が問題視されている。こうした政策運営姿勢の変化に伴い、2017年通年の対外直接投資は前年を下回ると見込まれる。

■「一帯一路」沿線諸国は高リスク
対外直接投資を牽引する新たなエンジンになると期待されているのが「一帯一路」である。一帯一路は、中国から欧州に至る陸海両ルート上にある国々のインフラ整備や経済発展を後押しすることで、共存共栄の関係を構築しようという遠大な構想である。習近平国家主席は、5月に開催された一帯一路の国際会議において、①シルクロード基金に新たに1,000億元(145億ドル)を加える、②政策金融機関の中国国家開発銀行と中国輸出入銀行を通じて3,800億元(551億ドル)を融資する、③大手国有銀行に海外で3,000億元(435億ドル)規模の人民元建ての基金を設立させるとし、一帯一路を全面的に推し進める表明とした。一帯一路沿線諸国に対する直接投資は資本流出規制の対象外とされたこともあり、2017年1~5月は前年同期比+6.7%の50億ドルと堅調で、投資全体に占める割合も14.4%に上昇した。

しかし、一帯一路沿線諸国に対する投資が今後も増えるか否かは不透明である。その理由として、一帯一路沿線諸国のリスクが高いことが挙げられる。政府のシンクタンクである社会科学院が2017年1月に発表した「中国対外直接投資・国家リスク報告」では、一帯一路沿線諸国を含む57カ国のカントリーリスクを明らかにしている。このなかから一帯一路沿線諸国を抜き出し、欧州の輸出保険大手ユーラヘルメスによるリスク評価と比較したものが右図表である。ユーラヘルメスがC以上と評価する国は35カ国中18カ国に過ぎず、17カ国が最低のDに分類される。また、図表からは、タイよりもカンボジアやラオスの評価が高いなど、中国の評価が親中政策を採る国に対して甘いという傾向がみられる。社会科学院は、経済の基礎的条件、債務償還能力、政治の安定性だけでなく、中国との経済関係という項目を加えて評価しているためである。

■輸銀と開銀の貸付残高は世銀を上回る
中国は過去、イランにおける石油・天然ガス開発やアフガニスタンにおける銅鉱山開発に失敗しており、一帯一路沿線諸国に対する投資はリスクが高い。こうした投資のリスクは中国輸出入銀行や国家開発銀行といった政策金融機関の融資によって軽減される仕組みになっており、一帯一路の推進と政策金融機関の融資は切っても切り離せない関係にあるといえる。しかし、対外直接投資の急速な増加に伴い、両行の貸付残高は2011年に2,776億ドルと世界銀行を上回る水準に達しており、その抑制を求める声が強まっている。人民銀行の周総裁は、2017年5月、海外プロジェクトに対する政策金融機関からの融資は、金利が低いと同時にアクセスも容易であるため、モラルハザードを招きやすいとして、融資拡大に慎重な姿勢を示した。

中国輸出入銀行は、2013~2016年の3年間で貸付残高が+52.5%も伸びたにもかかわらず、純利益はわずか+4.4%の伸びにとどまっており、不良債権比率が上昇している可能性がある。2017年に入り、政策金融機関は国別に信用限度額を設けるなど、リスク回避の姿勢を鮮明にしている。この結果、企業は一帯一路推進の掛け声とは裏腹に、リスクの高い投資に手を出しにくい状況に置かれている。政策金融機関のバランスシートを無視して一帯一路を進めるか、あるいは、将来の財政負担を回避するため慎重な投資姿勢に切り替えるか。習近平政権は理想と現実のギャップをどのように埋めるかという難しい問題に直面している。
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