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日本総研ニュースレター 2017年4月号

IoT本格普及の素地が整いつつある日本

2017年04月01日 浅川秀之


IoT活用は米・欧2つの方向性
 「これまでは家電メーカーのイメージであったが、今後は、『人に寄り添うIoT企業』を目指す」と先日の記者会見でトップが発言したシャープに象徴されるように、近年、多くの企業がIoTを活用した新事業展開、新ビジネス創出などに取り組むようになっている。
 ネットワークで接続された様々なセンサーから得られるデータをクラウドで蓄積し、それらをAIで解析して新たな価値を創出させようとするIoTには、現在2つの大きな流れが存在する。1つはドイツを中心とした欧州地域での「インダストリー4.0」という取り組みである。これは、従来は同一製品を大量に生産することのみを目的とした製造業の生産プロセスにIoTを組み込むことで、多様なカスタマイズと大量生産が両立するマスカスタマイゼーションを可能とするものである。 もう1つは、米国(主にGEが提唱)を中心とした「インダストリアル・インターネット」という取り組みである。航空機エンジンや発電設備の利用状況や運用状況をIoTでモニタリングし、得られたデータを基に最適制御や品質保証など、より高付加価値なサービスの提供を目指すものである。

技術の進展とネットワーク等のコスト低減が普及を後押し
 前者は提供者視点、後者は利用者視点でのIoT活用の流れであるが、近年では特に後者に注目が集まっている。
 「農業」での活用もその1つである。農作業時の判断に必要な環境データ(温度、湿度、風速、雨量など)を取得し、分析することで、農業従事者は遠隔から農作物の生育状態や環境を正確かつリアルタイムに確認でき、天候変化などの環境変化に最適な対応が可能となる。これにより収穫量の増加や農作物の品質向上、作業効率の向上などが見込まれる。また、様々なデータの統合的分析により、熟練者の暗黙的な判断の本質が解明されたり、場合によっては熟練者自身も気付いていなかったような、新たな気付きやノウハウを獲得したりすることなどが期待されている。さらに、働き手の高齢化と不足に悩む農業の現場からは、IoTでもたらされる農作業の効率化にも大きな期待を寄せられている。
 IoT活用への注目度が最近急速に高まってきたのは、技術の進展はもとより、IoTサービス提供のためのコストが安価になってきていることが重要な要因として挙げられる。モニタリングに必要不可欠な各種センサー類の単価が下落傾向にあるほか、重要な構成要素の一つであるネットワークコストも大きく下がってきている。
 欧米では「LPWA(Low Power Wide-Area Network)」というIoTに特化したネットワーク技術が普及し始めており、日本においても近年、NTTドコモなどの主要通信事業者、京セラコミュニケーションズなどがLPWA関連サービスの提供を公表している。
 LPWAは、従来の携帯電話ネットワークと比べると、ブロードバンド性やネットワーク品質は低レベルなものになるが、IoT活用に特化し、必要最低限な機能に絞ることによって料金が非常に安く抑えられている。先行する欧州地域では月額100円程度での提供も始まっており、これまでIoT活用が進まなかったような分野(特にコスト面で)においても実際の活用が進んでいる。日本でも、農業や水産業のほか、交通情報などを生かせる道路インフラ分野や、従来ではコストの捻出が難しかった中小企業などでのIoT活用が今後さらに進むことが予想される。

「安価・それなり品質サービス提供」へのビジネス変革
 このように、IoT普及のための素地は整いつつあるが、その普及のために重要な視点がある。それは、これまでのような 「高価・高品質サービス提供」(ブロードバンド回線を活用したクリティカルサービスの提供、遠隔医療など)から、一気に「安価・それなり品質サービス提供」へのビジネスモデル変革が提供側に求められる点である。
 例えば、従来高品質ネットワーク提供を主な生業としてきた主要通信事業者にとって、LPWA提供への新規参入には既存事業を破壊する側面も存在するため、いわゆる「イノベーションのジレンマ」状況に陥る可能性が高い。新たに求められるビジネスモデルにおいてどのように利益を獲得していくのか、IoT市場拡大のためには、技術面だけでなくビジネスモデル面での検討が非常に重要となる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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