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日タイ修好130周年に寄せて(1)「注目の大型インフラプロジェクト EEC」

2017年08月08日 中村恭一郎


 今年2017年は、日本とタイとの間で正式な外交関係が開始されて130年目に当たる「日タイ修好130周年」です。さかのぼれば、16世紀にはアユタヤの地に「日本人町」が造られ数千人の日本人が生活していたと言います。その日本人町を切り開いた人々の先祖は、さらに200年以上昔の14世紀には彼の地に到達していたと言われていますから、700年以上の関係が日本とタイとの間にはあることになります。

 現在、日本にとってタイはアジアにおける最重要パートナーの一国です。日本による対タイ直接投資は、タイに対する海外からの投資全体の3割以上を占めています。タイに進出する日本企業は製造業を中心に5,000社を超え、今もってなお、日本からの新規進出が続いています。また、バンコクを走る車のほとんどが日本車であり(シェアは9割以上)、街中には日本食レストランが溢れています。初めてタイを訪れた人の多くが、この日本車シェアと日本食ブームに驚くと聞きます。

 これまでは、相互に「重要パートナー」を自認する日本とタイの関係は、「製造業」を機軸にしたものでした。しかし、私は、修好130周年の今年を節目に、日本とタイの関係はさらに多様な業種を巻き込んだ新しいパートナー関係構築に向けて動き出すと考えています。そのきっかけとなるのが、タイ政府が力を注ぐ “EEC (Eastern Economic Corridor)” 政策とR&D(研究・開発)強化政策です。

 今回は、注目を集めるEEC政策の概要、EECの中核プロジェクトであるバンコク~ラヨーン間の高速鉄道事業をご紹介します。

 EECは、2016年7月に発表され、バンコクから東方に位置するチョンブリ、チャチュンサーオ、ラヨーンの3つの県を対象地域として、今後5年間で総額1兆5,000億バーツ、日本円にして何と5兆円規模の投資を行うという壮大な開発計画です。具体的には、バンコク~ラヨーンを結ぶ高速鉄道事業(投資総額約5,000億円)、ウタパオ空港の機能強化(約6,300億円)、レムチャバン港開発(約2,800億円)などの大型プロジェクトが計画されています。

 私は、中でも高速鉄道事業に注目しています。バンコク近郊のドンムアン空港から、スワンナブーム空港を経て、ラヨーンのウタパオ空港までの道のりを1時間以内で移動出来るようにする計画であり、現在車で(少なくとも)3時間以上はかかる移動が3分の1に短縮されることとなります。官民が協力して事業を進めるPPP方式が採用され、いわゆる上下分離方式で開発することが想定されています。また、事業推進のスピードアップのために、環境影響評価(EIA)の実施効率化などの施策も講じられています。

 私がこの高速鉄道事業に注目する理由は、本事業には「沿線開発」の可能性が見込め、事業としての実現性も他の高速鉄道計画よりも高いと考えるからです。
 もともとタイには本事業も含め5つの高速鉄道事業が存在しており、つい最近までは、どちらかというと本事業の優先度は低いほうにありました。ところが、EECが発表された後の2016年8月、タイ政府は本事業を第1号計画として優先すると発表しました。

 この背景の一つに、現地有力企業の存在があると考えています。本事業の沿線エリアは、タイを代表する財閥企業であるサハ(Saha)、チャラン・ポカパン(CP)、アマタ(AMATA)らが積極的に活動している地域です。サハは、シラチャ(チョンブリ県)を重点的に開発しており、日本の私鉄企業と連携した沿線開発も進めています。CPは、本事業の構想が発表された後、2015年の時点で投資に積極的な姿勢を示しています。ラヨーン、その北側に位置し観光地で知られるパタヤが同社の注力地域の一つであることも関係していると考えます。アマタは、チョンブリ県に東洋最大の工業団地「アマタ・ナコーン」を開発しており、今後も、同団地の周辺開発を積極的に進める方針です。いずれの企業も、高速鉄道事業の計画沿線に多くの土地を保有していることが共通点です。

 現地有力企業が沿線の土地を保有しているということは、高速鉄道事業の一丁目一番地とも言える用地取得が容易だということが言えます。現地有力企業が政府の用地取得に積極的に協力し、一方で、高速鉄道の駅周辺や沿線の不動産開発を官民協働で推進するという構図が考えられるからです。実際、現地ではそのような動きが起きています。高速鉄道の沿線開発となれば、駅周辺の商業施設開発、住宅施設開発、公共施設開発、それらの複合一体開発など、大規模な不動産開発が期待できます。こうした不動産開発が人々を集め、移動ニーズを高め、高速鉄道事業の採算性向上にもつながっていきます。

 これまで、鉄道事業者を中心に日本企業は世界各国の高速鉄道計画に積極的に取り組んできました。加えて、沿線開発の可能性も見込める本事業では、鉄道事業者だけでなく、ゼネコン、デベロッパー、IT・通信、サービスなど、さまざまな業種の企業が持つノウハウや経験が活かせる可能性があります。このように多様な業種の企業が開発に参画することにより、企業間の連携を起点として、日タイ両国の間で新しいパートナー関係の構築に向けて動き出していくことが期待されます。

 次回は、新しいパートナー関係発展のもう一つのきっかけとなる、タイのR&D(研究・開発)強化の取り組みについてご紹介します。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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