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アジア・マンスリー 2017年9月号

【トピックス】
中国からみた米中包括経済対話の成果

2017年08月22日 佐野淳也


中国にとって7月の米中包括経済対話は、米トランプ政権との間で対話をはじめたこと自体が成果といえる。経済摩擦の回避に向け、中国は引き続き米国製品の輸入拡大等の措置を講じる可能性が高い。

■第1回米中包括経済対話の一般的評価
7月にワシントンで開催された第1回「US-China Comprehensive Dialogue」(以下、米中包括経済対話)は、①会議終了後の共同記者会見が中止されたこと、②「100日計画」に関する初期段階での合意(5月)の後、貿易不均衡の是正に向けた顕著な進展がなかったこと、③貿易不均衡以外の問題点について協議したものの、具体的な成果を示せなかったこと、等から不首尾に終わったとの見方が一般的である。とりわけ米国側は、北朝鮮の核・ミサイル問題など地政学リスクへの対応で中国の協力を得るため、4月の首脳会談を機に、経済分野における対中姿勢を軟化させた。それにもかかわらず、地政学リスクをめぐる問題は好転しなかったうえ、対中輸出の拡大に資する措置も限定的なものにとどまったため、今回の米中包括経済対話に対して否定的な評価が少なくない。

■中国側からみれば一定の成果あり
もっとも、中国側から米中包括経済対話の開催まで約3カ月の交渉過程をみると、一定の成果が得られたとの見方ができる。主な成果としては、以下の3点が挙げられる。

第1に、米トランプ政権による保護主義的な通商政策措置の発動を抑制する枠組みが機能しはじめたことである。

今回の対話の結果を受け、米トランプ政権が高関税政策などの強硬策を実施する誘因は、やや高まった可能性がある。しかしながら、中国側が対話の継続をアピールしている状況下で強硬策を発動すれば、米国に対する内外の批判は一層高まるであろう。その際には、中国側も方針を転換し、報復合戦が激化していくと考えられる。それは、中国経済だけでなく、米国経済をも冷え込ませる結果となりかねず、トランプ政権としては強硬策の実施を躊躇せざるを得ないとみられる。すなわち、米中包括経済対話が実現し、今後も継続していくことが対中制裁措置の発動にブレーキをかけると期待され、中国にとって有益と評価できる。

第2に、貿易面での譲歩は最小限にとどめつつ、中国経済にプラスとなる成果も得たことである。農産物分野に焦点を当てると、中国は米国産牛肉の輸入再開に応じたが、これはオバマ前政権期に合意していたものである。同時に、米国が中国産加工鶏肉の輸入に向けた準備を進めることでも合意している。今回の対話終了後に報じられた米国産米の輸入再開合意を含めても、中国側の一方的な譲歩ではないといえる。

また、米国産LNG(液化天然ガス)の対中輸出条件を他国並みに緩和するとの合意により、米国からのLNG輸入の増加が見込まれる(次ページ右上図)。輸入先の多角化による供給途絶リスクの低下や価格交渉力の上昇も勘案すると、中国側にメリットをもたらす合意といえよう。

第3に、中国の一帯一路構想に対する米国政府の態度軟化を内外に示せたことである。米国は、アジアインフラ投資銀行に加盟せず、明確な賛意も示さないなど、中国が提唱する一帯一路構想に、これまで非協力的な姿勢を取り続けてきた。しかし、「100日計画」に関する初期合意において、米国は一帯一路構想の重要性を理解するとともに、一帯一路国際フォーラムへの代表団派遣を表明した。実際に、5月のフォーラムには米国政府から代表団が派遣され、姿勢の変化を印象付けた。米国が「少なくとも反対しない」という姿勢を示したことにより、中国による一帯一路構想の実現に向けた見通しは明るくなった。この構想が習近平政権の対外経済戦略の中心である点を踏まえると、米国側の態度軟化は、習政権にとって大きな前進といえよう。

■対米摩擦の回避に向け輸入拡大に注力
今後、米中二国間、さらにはグローバルな経済問題は主として、水面下での事前・事後交渉を含めた米中包括経済対話で協議される可能性が高い。その際、中国側は、過剰生産能力や人民元為替レートといった懸案での米国からの是正要求に対して、激しい反論と前向きな取り組みを織り交ぜて臨むと見込まれる。

とりわけ最大の焦点である貿易不均衡問題については、交渉の決裂、さらには米国による対中制裁措置の全面発動を回避するために、中国は引き続き米国製品の輸入拡大に向けて注力していくと想定される。中国の対米輸入を品目別にみると、農産物や航空機の割合が大きい(右中央図)。対米貿易摩擦が問題化するたびに、中国はこれら品目の大量買い付けで対応してきたが、今回の米中包括経済対話の前後にも、ボーイング社の航空機購入や米国産米の輸入再開などの合意がなされた。今後も、こうした対米融和策がタイミングを見計らって用いられるであろう。

そうした対応でも不足する場合、中国側はハイテク製品を中心とした対中輸出規制の緩和が、米国の対中輸出拡大につながるとの主張をより強く打ち出してくる可能性がある。中国の一般機械・電気機器輸入に占める米国の割合が低迷している現状を勘案すれば、説得力があるうえ、中国の産業高度化に資する効果も期待できる。

今秋の共産党大会において習近平政権は対外経済関係にも言及するとみられ、そこでは対米対話の継続を後押しする方針を示すと想定される。ただし、トランプ政権の出方次第ではその前提が崩れる可能性も完全には排除できず、貿易不均衡をめぐる米中の動きは予断を持たず注視していく必要がある。
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