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CSRを巡る動き:スチュワードシップ・コード改訂で推奨された議決権行使結果個別開示

2017年09月01日 ESGリサーチセンター


 金融庁は5月29日に日本版スチュワードシップ・コードの改訂版を公表しました。昨年11月末に同庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の意見書及び有識者検討会による改訂の議論を踏まえ、改訂前に比べより踏み込んだ内容となっており、コード公表の6ヵ月後である11月末までに改訂内容を反映した開示を求めています。

 その中で関係者の注目を集めたのは指針5-3の議決権行使結果の個別開示(以下、個別開示)に関する内容でした。折しも、世界最大の公的年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が個別開示を運用受託機関に要請するリリースをコード改訂直後の6月9日に公表したため、内外の主要受託運用機関は、実質的に原則への準拠を迫られることになりました。指針5-3は、「議決権行使の賛否の理由について対外的に明確に説明することも、可視性を高めることに資する」として、スチュワードシップ・コード署名の機関投資家が「行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべき」と推奨しています。またスチュワードシップ・コードの「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法により、実施しない場合の理由説明も求めています。

 この指針は海外機関投資家の業界団体である国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)の指針を参考に追加されたもので、現在、個別開示を行っているスチュワードシップ・コード署名機関のほとんどは、まだ海外機関投資家です。日本の機関投資家は、これまで議案(例えば剰余金処分や取締役選任)の種類ごとに、賛成・反対議案数の集計表、及び主な反対理由を開示するに留まっていました。しかし、今回の指針の追加により個別開示への対応を早期に迫られています。改訂コード公表直前に、国内の大手運用機関3社が個別開示を開始したことは注目されます。ただ、3社はそれぞれ月次、四半期ごと、年次と公表対象の議決権行使の期間が異なり、試行錯誤の跡が見られます。

 改訂スチュワードシップ・コードに対する早期対応として評価すべきこれら3社の取り組みも、先述の海外機関投資家の開示と比べると以下の3点について、さらに改善の余地があるといえます。第一に反対票及び棄権票について個別に理由を開示していないことです。理由開示については従来通り、概要での説明に終始しており、投資信託または年金基金の受益者に対する受託者責任という観点では理由も含めた個別開示に移行すべきでしょう。第二に投資先企業との利益相反についての開示がなされていないことです。日本の運用機関は銀行や保険会社を中心とした金融グループの子会社となっていることが多く、関連する銀行や保険会社の意向を反映し、反対すべき議案について賛成するという利益相反が存在すると一般的には考えられています。本来このような利害関係によらず受益者のために議決権行使をすべきであり、賛成・反対のどちらの票を投じる場合でもこのような関係については開示するのが受託者責任の観点からは本道といえるでしょう。第三に個別開示の範囲が国内企業に限られていることです。もちろんスチュワードシップ・コードが「日本版」と銘打っていることから日本企業への対応が求められるのは当然といえます。しかしスチュワードシップ・コードが機関投資家に「顧客・受益者と投資先の双方を視野に入れるもの」と序文で明言していることを考慮するなら、たとえ海外企業への投資であっても、日本の受益者のために開示を充実させていくことが有効といえるでしょう。
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