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農家の声から考えるスマート農業の可能性について

2018年02月14日 前田佳栄


 農林水産省では、2013年11月に「スマート農業の実現に向けた研究会」を設立し、ロボット技術やICTを活用した新たな農業の実現に向けた検討を進めている。2014年3月28日公表の「『スマート農業の実現に向けた研究会』検討結果の中間とりまとめ」では、スマート農業の将来像として、(1)超省力・大規模生産を実現、(2)作物の能力を最大限に発揮、(3)きつい作業、危険な作業から解放、(4)誰もが取り組みやすい農業を実現、(5)消費者・実需者に安心と信頼を提供、の5つの方向性が提示された。このうち、(2)作物の能力を最大限に発揮とは、土壌等のセンシングデータや栽培履歴等の分析や見える化により、従来よりもきめ細かな管理を行うことで、収量や品質の向上を図り、農家の収益向上を目指すものである。

 筆者は日本総研が取り組む次世代農業ロボット「DONKEY」(仮称)の開発の過程で、農家へのインタビューを重ねてきたが、農家からは、収量や品質の向上に加えて、それらの安定化を望む声も聞かれている。農家は、天候の変化や、作物の葉や花の色・形の変化、病害虫の発生等、圃場の環境や作物の状態に応じて、必要な作業を選び出し、その日の作業内容を決める。現状では、これらの判断は感覚に頼る部分が多い上に、限られた時間で多くの作業をこなす必要がある。そのため、農家は肉体的負担のみならず、大きな精神的負担を抱えている。また、農家は試行錯誤を続けるものの、品質や収量が安定しない場合も多く見られる。

 スマート農業では、種々のデータが蓄積されていくことで、圃場の環境や作物の状態と、収量・品質等の栽培結果との因果関係が分かるようになる。その結果、一定の収量や品質を担保するために必要な作業のみを抽出することも可能となる。そのような栽培方法が確立されれば、作業の削減により生産性が改善されると同時に、農家の精神的負担の軽減にもなる。スマート農業の実現においては、そのような農家のニーズに寄り添い、農家を支えるようなサービスが期待されている。

 さらに、農産物の販売先が確保できずに苦労していると話す農家もいる。この問題の解決策として、農家側の収穫量予測データや流通側の需要データから、需給のマッチングを行うサービスが徐々に普及している。これにより、農家は個人単位でも販路開拓が可能になり、売れ残りの防止や決済の効率化、農産物の詳細な情報提供による付加価値の向上、自分の名前で出荷することによるネームバリューの向上といったさまざまなメリットを享受できる。また、流通側では調達価格や量、時期の調整が容易になり、中間流通を省いた効率的な物流も可能になる。

 スマート農業の導入により、作物の生育状況や圃場環境の見える化が進み、将来的に上述のような目指す品質のものを目指す量だけ作れる技術が発達すれば、需給マッチングサービスの活用メリットも大いに増す。これまでは、個人の農家が需要側のニーズを把握するのは困難であったが、需給マッチングサービスを使うことで、細かなニーズが見て取れるようになる。農家はニーズ起点で最適な作付け計画を立てることが可能になり、場合によっては、1種類の作物でも品質を分けて、最適なポートフォリオを組んでいくこともできる。また、需要側と事前に品質や量を決め、契約栽培に近い形で栽培すれば、栽培に余計な労力をかける必要もなく、計画時点で確実に収益が見込める。スマート農業では多収や高品質の追求に加えて、必要な品質のものを必要な量だけ、必要な規模で作るというアプローチを忘れてはならない。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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