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【シニア】
第29回 「混合介護」から見えるシニアビジネスの本質的な課題

2018年07月24日 齊木大


 平成29年6月9日に閣議決定された「規制改革実施計画」で「混合介護」に関する検討を進めることが初めて盛り込まれた。今年4月13日に開かれた未来投資会議で厚生労働省は、混合介護に対する考え方を示し、平成30年度の早い時期に通知等で方針を明らかにすると表明した。
 介護保険制度はもともと、一定の条件で自費サービスと組み合わせて利用することが可能になっており、「混合診療」と違って現行の規制・ルールにおいてもある程度は実現可能である。規制改革実施計画に盛り込まれたのは、より柔軟で自由なサービスの組み合わせを実現すべく、現行の規制・ルールの緩和を検討するものであった。具体的には、デイサービスで保険外サービスを提供することや、ホームヘルプにおいて介護給付サービスと保険外サービスを同時一体的に提供することなどが検討対象になっている。

 これらは一見すると、規制・ルールをどう設定するかという問題に見えるが、背景にある考え方まで掘り下げていくと、「混合介護」に留まらないふたつの本質的な問題が浮かび上がってくる。第一に、「介護給付の範囲の設定が妥当なのか」、第二に「利用者(高齢者)が契約内容を十分に理解できる、あるいはしているのか」ということだ。

 介護給付サービスの利用者自己負担は、条件にもよるが基本的に費用額の2割である。したがって、経済的な負担でいえば利用者にとって介護給付サービスの範囲が広がる方がありがたいし、介護事業者にとっても自己負担額が低い介護給付サービスの方が提案しやすく提供しやすい。けれども、介護給付の範囲を無制限に拡大しては、財政からみても人的資源から見ても限界がある。とはいえ、介護保険制度が創設された2000年頃と現在、さらには将来では、こうした問題を取り巻く社会背景が異なる。最たるものは、長寿命化、一人暮らし高齢者の増加、技術革新の三つだ。
 こうした社会の基本条件の変化を踏まえれば、第一の点である介護給付の範囲を大きく見直さざるを得ない時期に来ていると言える。特に技術革新については、ケアの提供場所におけるホームオートメーションやICTデバイスの活用度合によって、そこで従事するケアスタッフに求められるケアの量・内容は相当に変化している。高齢者本人の生活特性やケア環境に応じてより細かに給付の基準を定めるか、あるいは時間単位ではなく状態に応じた包括的な給付にしていくかの検討の時期であろう。

 第二の「利用者の理解」の方が、市場サービスを提供する民間事業者にとって大きなハードルだ。長寿命化と一人暮らし高齢者の増加に伴い、いま以上にサービス内容の理解が困難な利用者が増えることが見込まれる。認知機能の低下だけでなく、家族や知人など、サービスに関する情報を得たり相談したりできる相手が少ない高齢者が増えることは、サービスの選択や契約を支援する力が低下することを意味する。
 この問題は、要介護高齢者だけでなく、全ての高齢者に関わるものである。ただし、要介護状態になれば本人の意思決定を支援する専門職として、ケアマネジャーなどが担当につき、支援を提供できる制度が生まれている。もちろんケアマネジャーの資質向上も課題だが、専門職にアクセスできる利点がある。一方、将来の暮らし方の選択肢が多く、生活環境が大きく変化する時期にあり、選択を迫られる機会が多いのは、状態が少し低下して元気とまではいえないが要介護状態ではないギャップシニアである。人数の規模で見ても要介護高齢者よりもギャップシニアの方が多い。
 つまり、ギャップシニア層の視点に立って分かりやすく選択肢を提供し、ギャップシニアが自らそれぞれの選択肢の内容を理解し、納得感を持って契約できるような環境を整えることが、今後の政策課題として重要なのである。

 幸いにして、介護給付サービスだけでなく保険外サービスの選択肢も徐々に増えてきている。もちろん地域差や価格が高いといった課題はあるが、供給が増えていることは事実だ。したがって今後、こうした市場サービスが高齢者に安心して選ばれ利用され、市場自体も確実に成長していくためには、「利用者が理解しやすいこと」、そして「納得して選択している実感を得られること」、そうした仕組みの構築を進める必要がある。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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